取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛
京都らしい凛とした空気感とももえさんの懐の深さに酔いしれる
初めてなのに懐かしい場所に帰ってきた、時々そんな気持ちにさせてくれる店がある。 こちらもまさにそうなのだ。店主の井上ももえさんの接客はとてもフランク、そしておしゃべりにはウイットがあって心をほぐしてくれる。でもハメをはずすお客さんがいれば、ほんのりスパイシーにたしなめたりもするとか。そんなところが絶妙で、だからこその客筋の良さがある。「他から来てくれはる方もいらっしゃいます」と井上さんがいうのもすごくよくわかる。
場所は烏丸駅から歩いてもすぐとアクセス抜群。しかしながら、路地の奥に隠れた入口はそうと知らなければ見つけられないかもしれない。表札めいた看板に瑞々しい花が活けられた風情もよく、木戸にはのぞき窓があって、井上さんの弾けるような笑顔がチラリと見える。毎度ちょっと襟を正してお茶室の躙り口のような小さな木戸をくぐるのだ。
縦長の店内いっぱいのカウンターはわずか11席。白いカバーがかかったイスがお行儀よく並び、オープンキッチンでは火にかかった鍋がおいしそうな匂いを放っている。
メニューはリングノートに手書きで書かれていて日替わり。「はやいめ」「おそいめ」などと分けて書いてあるので、時間がかかるものと、早く出るものがすぐわかるところが親切だ。
お品書きはお刺身、おひたしなどの和食をベースに、ひとひねりしたアイデアものが多彩。「あなたの知らないカニカマの世界」とか、「ステキなトンテキ」とか、ワクワクするようなネーミングにもくすぐられ、ついつい見入ってしまうのだ。
定番のポテトサラダは3種類あって(それも日によって変わるので)こちらも悩ましい。次は何を食べようか、どこまで胃袋に収まるだろうかと、真剣に悩んで決めたところで、隣の人に運ばれた皿を見てまた心変わりする羽目に陥ったり。とにかく食べたい料理がつきない店でもある。