今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。
写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登
費やしたコストに対する効果と満足度を意味し、幅広く使われている“コスパ(コストパフォーマンス)”。この概念は今や社会的にも重要視されるものとなり、Z世代の間ではさらに一歩進んだ“タイパ(タイムパフォーマンス)”という概念が新常識に。当然ご存知のことだろうが、こちらは費やした時間に対して用いられる。要は限られた時間内にどれだけの効果・満足度を得られるか。「なんとも即物的な時代になったものだ」と言いたくもなるが、案外このタイパを意識したアイテムに我々は慣れ親しんでいたりもする。
今回のテーマである“スリッポン”なんてまさにそう。履き方は実にシンプルだ。シューレースを結ぶ・ほどく手間なく、ただシューズに足をすべり込ませる(SLIP-ON=スリップオン)のみ。このイージーに脱ぎ履きができるという気安さを武器に、タイパにうるさいZ世代のみならず幅広い世代の心をつかんでいる。しかしその一方では、気安さに由来するリラックスムードが足枷となって、活躍の場面が限られるなんてことも。
ゆえに本稿では汎用性を意識し、大人の着こなしとそれが求められるシーンにも対応してくれる“レザー素材”のモデルに焦点を当てる。選考基準は品と楽を兼備するか。その答えをここに集めた。
1. Hender Scheme「klein」
華美な装飾とリラックスした履き心地による絶妙なバランス
革靴や革小物などを得意とするエンダースキーマ。同ブランドといえば、スニーカー史に残る名作モデルをヌメ革で製作したオマージュシリーズが著名だが、それ以外にも佳作の多いこと。ここで紹介するのは、カウレザー製アッパーのツマ先にメダリオンとタッセルキルトの装飾をあしらい、上品に仕上げられた今季の新作。
透明感のある生ゴムを焼いて製作したカップインソールを採用し、ライニングには足馴染みの良いピッグレザーを。リラックスした履き心地なのにドレッシーな顔立ちで、大人の足元を支える。ソールとややアンバランスなアッパーの組み合わせによる妙味の秘密は、フォルムやマテリアルの選択による絶妙なチューニング。これによって既視感があるようで実はない、ユニークな一足が完成した。