取材・文=吉田さらさ 写真=フォトライブラリー

椿大神社 

主祭神は導きの神、猿田彦大神

 今回は三重県鈴鹿市の椿大神社をご案内しよう。まずは神社名の読み方から。「つばきだいじんじゃ」ではなく「つばきおおかみのやしろ」と読むのが正式である。巷では「椿大神社は神様に呼ばれた人しか行けない」などと言われているそうで、実際にあまり行ったという話を聞かない。

 交通の便がやや悪いことや、三重県の神社ならまず伊勢神社に行く人が多いという現実的な理由もあるのだろうが、わたし自身は、神に呼ばれたとまでは言えないにしろ、はるばるここまでお参りに来たのには深い意味があったと感じた。

 実は何年も前からぜひ行ってみたかったのだが、なかなか機会がなく、昨年の秋にようやく念願叶ってお参りすることができたのだ。こちらの主祭神は導きの神、猿田彦大神。ずいぶん年を取ったが、まだ何かできることがあるのではと悩む昨今、このタイミングでこちらの神様にお会いできたのは僥倖だったと思う。

 猿田彦大神は天孫降臨、すなわち天照大神の孫である瓊々杵尊が地上に降りる際、道案内をした神である。道がいくつにも分かれているところに差しかかった時、どこからともなく、体が巨大で鼻が異様に高く、目が照り輝いている不思議な神が現れた。従者の天之鈿女命が遣わされて名を尋ねると、「自分は猿田彦である。瓊々杵尊を先導するために来た」と名乗った。記紀の中でも屈指の印象的なシーンである。そのためか、猿田彦大神は、この先の道を開きたいと願う人々に人気が高い。

 アクセスは車が便利だが、近鉄四日市駅からバスも出ている。バス停そばに鳥居があり、右手に手水舎、左手に庚龍神社と呼ばれる祠がある。傍らにある樹齢400年の樅の木に宿る金龍龍神、白龍龍神、黒龍龍神の三社である。

 その先、右に折れる細道があり、そちらにも見どころがあるが、まずはまっすぐ本殿に向かおう。左側に聖武天皇の勅願によって奉納された獅子頭に由来する獅子堂、続いて御船磐座。神代の神跡で、瓊々杵尊一行の船がここに繋がれ、ここから九州に先導されたと伝わる。左手には石の恵比寿像と大黒像が祀られた小さな祠がある。なかなかかわいらしい像なのでお見逃しなく。

 さらに進むと高山土公神陵。前方後円墳で、これが何と猿田彦大神の御霊だという。ここでは地球の上に乗る猿田彦大神の石像という珍しいものも見られる。

高山土公神陵

 さらにもうひとつ鳥居をくぐると、目の前に壮麗な正面拝殿がある。間口がたいへん広く、すべての人を受け入れてくれそうな懐の深さが感じられる。この奥に内拝殿があり、さらにその奥に、普段我々の目に触れることはない総檜で神明造りの御本殿が鎮座している。猿田彦さま、どうぞわたしの前にもあらわれてよき方向にお導きください