パリのカフェの美学

パリのカフェは深入りのエスプレッソが主流で香ばしい

 芸術家が集まった、美しくも自由な気風を持つパリのカフェは、芸術のインスピレーションを次々に生み出しただけでなく、ルソーらは百科事典を製作し、革命家はフランス革命を誘発し、歴史的に人々のありとあらゆるエネルギーを引き出すマジカルな場所であった。

 ギャルソンとして働き始め、経営を学んで店の権利を買い取ったオーヴェルニュ地方(パリのカフェ産業の8割を担っている山岳地帯)出身のオーナーは「カフェでは誰もが平等なんだ」。労働者が社長と肩を並べ、珈琲を飲みながら語りあえる場所なのだという。

熱心にノートに何かを書きつけていた男性とレトロなカフェの看板

 このカフェにいる小一時間ほどの間に、PCを持ち込んでいる20代らしき女性が、常連の老人が入ってきたのを見て軽く挨拶をし、そんなことはお構いなしに、そこに何時間も、いやきっと何年も前から何かを一心不乱に書き連ねている人がいる。経営者風の男性はカウンターでエスプレッソをひっかけて出ていき、それと入れ違いに工事現場の労働者が入ってくる。若者のグループががやがやと席に着く……様々な人々が自分を携えてやってくる。その美しい空間はそれでも品格を失うことなく、素知らぬ顔で、すべてをそのまま、平等に飲み込んでいく。

 あなたはこの空間で何をしたいですか。

古いレンガ造りの外観は歴史と風格を感じさせる

 

Le Bistrot du Peintre
116 Av. Ledru Rollin, 75011 Paris France

 

柏原 文・著『ヨーロッパのカフェがある暮らしと小さな幸せ』(リベラル社)