名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

イタリアン・ラグジュアリーの新たなる担い手

 1978年イタリアにて設立されたブルネロ クチネリは、並みいる同国のファッションブランドに比べると、新鋭と言える存在だ。しかし早くからカシミアという素材に特化し、高品質なセーターやテーラードウエアを打ち出すなかで、伝統的な「イタリアン・ラグジュアリー」と呼べる確たる世界観をひとつの形にした。

 繊細な職人作りと品質の高さを徹底し、創業20数年で世界的トップブランドへと急速に成長したのである。その発展は、ひとえに同社の会長でありクリエイティブデザイナーであるブルネロ・クチネリ氏の志の高さにある。

「真に豊か(ラグジュアリー)な暮らし」は“バランスがとれている”ことが不可欠で、そこには“美”が大切であると説いたブルネロ・クチネリ氏。“美しさ”は健全な心が生み出すもので、物づくりをする人の心を健やかなものとすることを重要と考えた。つまり、職人や素材作りの人員を育て継続させるには、彼等が豊かに生活できる環境こそ何よりマストとブルネロ クチネリは確信しているのだ。個々人が尊重され、自尊心を保てる環境を。ハイプライス設定は、職人の持続可能な生活のための適正なフィーであることも言い添えておく。

 現在ブランドの拠点となるイタリア中部ペルージャ近郊の、自然豊かなソロメオ村にはこの理想的な生産体制が実現されている。真にラグジュアリーな物作りというものは、プロセスもまた非常に重要なのである。