文=加藤恭子 撮影=加藤熊三、木戸泉酒造

『AFS Stratae(アフス ストレータ)』は、高温山廃酛(やまはいもと)の一段仕込みの貴醸酒。しかも契約農家による自然農法米を100%使用し、乳酸菌、酵母菌無添加という超ナチュラル派。ひと言でいうと “甘美なるマニア酒”! 参考価格3,850円(税込)

“甘美なるマニア酒”

 しっかりと熟成した琥珀色。グラスを傾ければ、ドライフルーツに似た甘酸っぱさと穏やかな旨味が、のびやかに、ゆるやかに、とろりと広がる。日本酒の熟成ワールド、おそるべし。知る人ぞ知る熟成酒のなかでも、この「AFS Stratae(アフス ストレータ)」は、ひときわ飛びぬけた個性を放つ“甘美なるマニア酒”、といっても過言ではないだろう。

「Stratae(ストレータ)」とは、宇宙から地球の核(コア)までの層という意味。壮大な層のようにヴィンテージを重ねていくということから名づけられた。骨太なネーミングにもしびれる!

「ひとことで言うと、“変態”ですよね。うちの蔵は」――。

 自らそう名乗るのは、この酒を醸す木戸泉酒造を率いる5代目蔵元兼杜氏、荘司勇人(しょうじはやと)さん。まずはその歴史からひもとこう。

 創業は、明治12年(1879)。当時は醤油やみそなどの卸、塩の元売り、漁業などをおこなう傍ら、酒造業を開始した。現在の木戸泉を特徴づける大きな転換期となったのは、27歳で家業を受け継いだ3代目が漁業権を譲渡し、酒造業に専念してからのこと。昭和31年(1956)、3代目はここで造る“すべての酒”の仕込み方法を、大鉈を振るうがごとく、「高温山廃酛」というきわめて特殊な製法にガラリと切り替えた。

千葉県いすみ市大原の海辺にある木戸泉酒造。4代目の荘司文雄さんと5代目の勇人さん。1956年からすべての日本酒を特殊な「高温山廃酛(やまはいもと)」で仕込み、長期熟成酒を追求してきた。1967年から自然農法米を使用した酒造りにも取り組む。2028年には、すべての原料米を自然農法米100%に切り替える予定

 「高温山廃酛」とは、いったいどのような日本酒の製法なのか。