18世紀フランス絵画の至宝が来日
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》は、今回26年ぶりの来日となった18世紀フランス絵画の至宝。暗い寝室の中で絡み合う一組の男女。一見、ダンスに夢中になっているように見えるが、女性は男性から顔を背けている。ということは、女性が男性の誘いを断ろうと抵抗している場面なのだろうか。
その謎を解く手がかりとして、絵画の中には暗喩をもつモチーフが描き込まれている。「かんぬき」は男性性器の暗示、「壺とバラの花」は女性性器・処女喪失の暗示。乱れたベッド脇のテーブルには、人類最初の女性であるエバの誘惑と原罪を連想させるモチーフ「リンゴ」が置かれている。
この作品が、性愛をテーマにしていることは間違いない。だが、官能的な愛の戯れを賛美しているのか、それとも道徳的警告であるのかは謎のままだ。愛とは繊細かつ複雑さをもつ、一義的には解釈できない曖昧なもの。その曖昧さをフラゴナールは絶妙なバランス感覚で描き切っている。
絵画に込められた真意を探りたい
注目したい愛の絵画はまだまだ尽きない。フランソワ・ジェラール《アモルとプシュケ》は、無垢な少女プシュケが愛の神アモルに恋をし、彼から最初のキスを受ける“初恋絵画”。アポロンと美少年キュパリッソスの愛の神話を題材にしたクロード=マリー・デュビュッフ《アポロンとキュパリッソス》は、身体の描き方に両性具有的な表現が試みられた“若者の思春期絵画”。
サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》は、無人の部屋が描かれた室内画。人物の描写はないが、慌てて脱ぎ捨てられたかのように散らばる部屋履きに、エロティックな愛の営みを想像してしまう。好奇心をそそる“匂わせ絵画”といいたくなる作品だ。
先にも述べたが、この展覧会は見れば見るほど、探れば探るほどにおもしろい。展示作につけられたキャプション(解説文)や展覧会カタログを参考に、作品のストーリーや真の意味を読み解いてほしい。音声ガイドの利用もおすすめ。満島ひかりさんによるガイドが軽快で聞きやすく、愛の絵画鑑賞を楽しいものにしてくれます。