文=條伴仁 イラスト=日高トモキチ
昨年は日本を舞台にした伊坂幸太郎原作のアクション『ブレット・トレイン』、今年は黄金時代のハリウッドを舞台にした話題作『バビロン』など、コンスタントに大作、話題作に主演し、今やハリウッドを代表する大スターとなったブラッド・ピットですが、彼には難しい題材に挑戦し、見事な成功を納めているプロデューサーとしての顔もあります。その拠点となっているのが彼の製作会社PLAN Bです。
今回は大スターのもう一つの顔をご紹介するプラスワンをお届けします。
「PLAN B ENTERTAINMENT」とは
PLAN B ENTERTAINMENTは、2002年にブラッド・ピット(以下、ブラピと称させていただきます)が、元妻のジェニファー・アニストンやパラマウントのCEOだったブラッド・グレイらとともに立ち上げた製作会社です。彼の映画の製作クレジットの一社として、名前を見たことのある方も多いのではないでしょうか。
その方向性は創り手主体の映画製作。設立以来3回のアカデミー賞作品賞を受賞するなど、着実な成果を残しています。設立20周年の2021年には米TVのトークショウで『Brad Pitt’s Plan B Entertainment: A Tribute to One of the Biggest Champions of Auteur-Driven Films』(サブタイトルの意味は“最も成功した作家主義映画会社の一つに敬意を込めて”くらいの感じでしょうか)という特集も組まれました。
それではその主な作品をご紹介していきましょう。まずはアカデミー賞を受賞した代表作からです。
代表作①アカデミー賞に輝く代表作3作品
●『それでも夜は明ける』(2013年)
1本目は何といっても2013年のアカデミー賞で作品賞、助演女優賞、脚色賞を受賞した『それでも夜は明ける』でしょう。19世紀前半を舞台に、ある日誘拐され奴隷として売られた黒人男性の自伝を映画化した衝撃作で、ブラピも物語のカギを握る役で出演しています。19世紀の黒人奴隷問題はアメリカ史の大きな闇として、映画やTV作品でも何度も描かれているテーマですが、21世紀に今日的な価値観も取り入れてそれを描いた挑戦が成果を生んだ、PLAN Bの代表作ともいえる良心作です。
●『ムーンライト』(2016年)
同じく、難しいテーマに挑戦し見事にアカデミー賞作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞したのが2016年の『ムーンライト』です。貧しい家庭に生まれた黒人男性が自分のセクシャリティと葛藤して成長していく姿を少年期・青年期・成人期の3部構成で描いた作品で、人種、貧困、セクシャリティなど現代アメリカの問題が多重的に、そして美しい映像で描かれます。監督はこれがまだ2作目だったバリー・ジェンキンスを抜擢。ブラピの出演はなく、製作総指揮にクレジットされています。
●『ディパーテッド』(2006)
そして初期の成功作として忘れてはならないのが香港映画『インファナル・アフェア』を名監督マーチン・スコセッシが豪華キャストでリメイクした『ディパーテッド』(2006)です。
アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞を受賞しました。アジア映画をアメリカで大作としてリメイクするという大胆な試みで成功を納めた作品ですが、あまりに豪華キャストのため、当然ブラピ本人も出演と思いきや、実は出演はなくスコセッシらとともに製作としてクレジットされています。主演はレオナルド・ディカプリオ、マット・デイモンでした。