広い、見切りがよい
よい点としてはまず、パッケージングにかかわって、居住性や視界のよさがある。全長4585×全幅1850×全高1640mmの外寸は、VWティグアンに近い欧州Cセグメント相当のSUV並みであるけれど、2770mmというホイールベースはティグアンの2675mmより95mmも長く、全長4585mmのボディにたいしてホイールベース長が60%をこえている。くわえて、1640mmと背が高いので、上下方向の室内空間がたっぷりあり、おかげでCセグメントよりもひとまわり大きなDセグメント級の居住空間を実現している。
ボディも現代のSUVの基準をもってすれば大柄というほどではなく、シート高は見晴らしのよい高さなので、運転席から車体のサイズがつかみやすい。ガラにくらべて室内空間が大きく、ボディの見切りもいいので、リラックスした居心地があり、はじめて乗っても運転に気をつかわなくてすむ。日常使用する実用車としては、ファンシーなルックスよりも大事な美徳である。
とはいえ、外観が魅力的でないとはいえない。
「風がつくったようなスタイル」というのがVWの触れ込みで、じっさい、Cd値は0,28と、全高1600mmごえのSUVとしては異例にすぐれている。EVであるせいもあって、グリルの押し出しでエゴを主張するえげつなさはなく、装飾的なだけの複雑な面の交錯もない。高いショルダーラインと天地の狭いグリーンハウスが形づくるプロファイルはシャープですらあり、ひとめ、ミニマルで軽やかなオーガニック・デザインに見える。
インテリアについても、テイストは軽快で、ウッディなブラウンの人工レザーとダーク・グレイのベロアの組み合わせによるシートやダッシュボードの色調構成は、イタリアン・モダンのタッチである。仕上げの品質も高く、シリアスな実直さが目立っていた従来のVW車よりも一皮むけている。
もうひとつ注目したいのは、デザイン的な主張として、アクセレレーター・ペダルの表面にYouTubeの「play」記号が、ブレーキ・ペダルの表面におなじく「停止」記号が貼り付けられていることだ。
鉄とガソリン時代の自動車ではなく、集積回路基板とデジタル信号の時代の自動車であることの暗黙の主張が、そこに込められている。そして、ステアリング・ホイール奥やダッシュボード中央のデジタル・タブレットのごとき形状をふくめ、自動車というよりは通信機器やデジタル家電のデザインにかかわる美意識が、いまどきの自動車デザイナーの美意識に、一般的に影を落としているような気がする。いずれにせよ、デジタル・ガジェットとの親和性をこのような手法で強調することは、自動車をデジタル・ガジェット化したいという(深層における)欲望の表現であろうか。それとも、たんなるテスラ・コンプレックスの兆候か?