文=松原孝臣
16年ぶりによみがえる懐かしいプログラム
演技を終えてしばしの後。その表情には疲労があった。でもそれだけではない表情があった――。
2022年11月18・19日、札幌市の真駒内セキスイハイムアイスアリーナでフィギュアスケートのNHK杯が行われた。 アイスダンスの村元哉中・髙橋大輔にとって3年連続で出場する大会だ。
リズムダンスのプログラムは『コンガ』。
「最初から踊りまくりたい思いで滑りました」(村元)
その言葉の通り、スタートからの速いリズムに合わせたコレオステップに、場内が瞬く間に引き込まれる。すぐさま始まった手拍子も自分たちのリズムとするかのように2人は躍る。ディープエッジも駆使しながら、スピードにあふれ陽性の世界を創り上げる。終盤のリフトでも最高のレベル4を獲得。2人の初戦だった10月のスケートアメリカではレベル1にとどまっている。そこにも成長があった。
フィニッシュ。2人は笑顔でうなずき合った。
髙橋の言葉にも充実感がうかがえた。
「公式練習でリフトがうまくいかなかったり、不安要素もありましたけれど、集中して演技できたのはよかったと思います」
得点は75・10点。5位で終えた。
迎えたフリー。
プログラムは「まさかアイスダンスで大ちゃんと一緒に滑れるとは夢にも思いませんでした」と村元が語る『オペラ座の怪人』。2006-2007シーズン、シングルのときに髙橋が使用しさまざまな舞台で印象深い演技を披露した思い出深いプログラムが実に16年ぶりによみがえったのだ。
演技が始まる。しばしば拍手が起こり、場内に熱気も立ち込める。
ただし、得点は伸びなかった。得点は103・68、リズムダンスとの合計は178・78点。総合6位で試合を終えた。
後半になってレベルをとりこぼし、終盤のリフトではバランスを崩しかけた。その場面を髙橋が振り返る。
「(頭上から村元に)『頑張って』か『踏ん張って』か、声をかけられたと思います。はっきり覚えてないですけど」
演技が進むにつれて、疲労がのしかかっていた。
「後半のパートに入って、足に来てしまって」
疲労の要因をこう語る。
「今回はスタートからペース配分せずに、思いきりスタートから、と思ってやったらちょっとペースが」
「久々に日本のお客さんの前で緊張があった」とも言う。緊張ばかりではなく、いい演技を、という強い思いがあっただろう。