フィギュアスケートのアーカイブの問題点

 だが、フィギュアスケートにあって、アーカイブされにくいものがある。それが演技映像だ。そして最もアーカイブが必要なものでもある。

「フィギュアスケートや新体操のようなアーティスティックスポーツでは、アーカイブは必要不可欠です。なぜならば私たちはゼロからものを創造することはありえません。先人たちが築いたものを参考にさせていただくからこそ、よりよいものを作ることができます。まさに芸術の歴史はそうして発展してきました。『こういう演技があってこういう芸術性がスケーターによって表現されたんだ』という歴史を参考にし、自分の良さも取り入れながら新しい作品、よりよいものが生み出せるのです」

 演技の歴史を知る——それは過去の演技映像を観るということにほかならない。つまり演技映像がアーカイブされることの重要性を物語っている。でもアーカイブしにくいのだという。そこには、フィギュアスケートの演技映像ならではの特徴があると語る。

 それは、フィギュアスケートが音楽を伴うものであることに由来する。そしてそればかりではなく、アーカイブにあたっての課題が横たわっている。

 町田は実践的に、演技映像のアーカイブの困難さと向き合い、そこで具体的な理由と障壁を味わってきた。障壁にぶつかるのみならず、クリアして一つの成果をあげた。

「これはフィギュアスケート界初です」

 そう語る実践の経緯と成果とともに、町田は演技映像のアーカイブの問題点を説明する。(続く)

 

町田樹(まちだたつき)
スポーツ科学研究者、元フィギュアスケーター。2014年ソチ五輪5位、同年世界選手権銀メダル。同年12月に引退後、プロフィギュアスケーターとして活躍。2020年10月、國學院大學人間開発学部助教に。研究活動と並行して、解説、コラム執筆など幅広く活動する。スポーツを研究者の視点で捉えるJ SPORTS放送『町田樹のスポーツアカデミア』では企画・構成・出演を担う。著書に『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社)『若きアスリートへの手紙――〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社)。