〝新しい資本主義〟は
本当に可能なのか?
新谷 総理大臣が変わったことについてはどう捉えますか? そもそも興味あります?
藤原 もちろんありますよ。
新谷 ポジティブ、ネガティブでいうと?
藤原 今回はどちらでもないですね。岸田さんのキャラクターから言っても、あまり大きな変化はないでしょうし。そもそも、トランプからバイデンに代わったったアメリカだって、それほど変化は起きていないですよね。対中政策にしても、TPPにしても。
新谷 もちろん両国とも変わってはいるんですが、どちらの権力者も自分のやりたいことを自由にやれない環境にありますから、うまく物事を前に進めにくいんですよね。ただ、もうちょっと細かく見ていくと、自民党におけるタカ派の清和会から、岸田さんが率いるハト派の宏池会へ、という流れはあります。『文藝春秋』の2月号で、「次の総理、5年後の総理」という政治記者123人へのアンケートを特集しているのですが、ここで林芳正さんが選ばれたことも、その現れかもしれません。この方は今の外務大臣ですが、日中友好議連の会長も務められた、ハト派の代表格ですから。
藤原 安倍さんはもちろん歓迎していないんですよね。
新谷 かなり危惧というか、力をつけ過ぎることは警戒しているでしょうね。岸田首相自身は〝新しい資本主義〟というテーマを掲げて、新自由主義からの脱却や富の再分配を目指していますが、安倍さんのようなお目付役もたくさんいるから、なかなか思うに任せないところもあるんですよね。
藤原 行き過ぎなければの話ですが、僕も富の再分配は必要だと思います。
新谷 新自由主義からの脱却は世界的な潮流にもなっていて、多くの学者がそういう発信をしています。若手哲学者である斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』もベストセラーになっていますし、今年のひとつのテーマになるんでしょうね。
藤原 でも、それをどうやって円滑に進めればいいんでしょうね。たとえお金持ちが吐き出しても、本当にちゃんと分配できるか、という問題もありますし。
新谷 そうですね。アメリカでは、そもそもハト派である民主党の支持層がエスタブリッシュメント中心なので、そのエリート政治からこぼれ落ちた人々が超タカ派のトランプを支持してしまう、というねじれ現象が起きています。日本でも同様ですが、メディア不信の理由はそこにもあるでしょうね。今まさに困っている人々にとって、自分たちの味方だと思えないメディアが増えていると、その傾向はさらに助長されてしまうでしょう。
藤原 それは感じますね。
新谷 最近は、わかりやすく未来への希望を語れる若い世代も少ないような気がするんです。私の長男は大学三年生になるんですが、むしろ失敗を恐れるような気持ちが強いですから。
藤原 どんな感じですか? SDGsとか、考えてますか?
新谷 それもありますが、ワークライフバランスとかを一生懸命考えていて、私からするとどうしてこの歳でそんなに自分の人生まとめにかかってるんだよ、と思っちゃいますね(笑)。
藤原 投資とかしてますか?
新谷 ああ、やっているかもしれない。興味は持っています。
藤原 僕が仮に今中学生だとしたら、きっとビットコインを買ってるんじゃないかな。買い物するよりも、それが増えるほうが楽しくなって。
新谷 それはぜんぜんパンクじゃない(笑)。まあ、世代でひとくくりにするのはナンセンスですけれど、今は若い世代こそ保守的で、自民党支持者が多いですから。逆らうことは悪、みたいな。
藤原 逆らうことって、矛盾にぶつかりやすいんですよね。SDGsを声高に叫んだら、「じゃあお前この先2年洋服買うな」みたいなことを言われるので。
──それはまさに、ファッション業界が直面している悩みかもしれません。
藤原 これ一着買ったら10年持ちますよ、というのを毎年売っているわけだからね。
新谷 今の言論空間って、すぐにどっちが正しいかという議論になっちゃうから難しいんですよね。全員が納得する意見なんてありえないのに。だから最近、〝論破王〟みたいな口先ばっかりの人間が評価されることに、すごく違和感を感じています。
藤原 前も言ったかもしれませんが、僕はメディアとは、ある程度一方通行でいいと思っているんですよ。言われたことに反論するよりも、もう一方通行で、強い発信をするほうがいいと思います。