スタイリストとしての矜持を表現する店
「お店っていうのはぼんやり頭にあったのだけど、どういうお店にするのが最適かというのは考えついていなかったんです。それで、ある撮影のときにフォトグラファーが僕の着ているものを『小沢さん、それどこの服ですか?』と聞いてきた。その日は高円寺で買った古着を着ていたのでそう答えると『え、小沢さんってそういうものも買うんですか?』と。そんな何気ない会話のやりとりから、自分としてはハイブランドの服も古着も買うし、昔買ったものも今の気分に合えば着るよな、と改めて考えました。これが一つのきっかけとなって、スタイリスト的な視点を表現するお店のあり方とはこういうことじゃないか、と思ったんです」
これに加えて、自らブランドを手がけていたこともこの店の方向性を決めるのに大きく関係しているという。
「2003年に〈Numero Uno〉を始めて、そのあとビームスの窪浩志さんとの〈Coffee & Milk〉、それから〈EDISTORIAL〉といったブランドを2017年頃までやっていました。それであるとき、事務所を縮小しようと決めて整理をしていたら、10パッキンくらいサンプルやB品(傷物や若干の不具合があった商品)が出てきたんです。自分としては在庫も残さずうまいことスリムにやってきたつもりだったので、ショックもありつつ、同時にこのくらいの規模でやってきたブランドがこうなんだから、大きな規模で展開しているブランドやメーカー、セレクトショップはいったいどれだけゴミとして廃棄しているんだろう、と考えたわけです」
では、思いがけず出てきた古い在庫を小沢さんはどうしたのか。
「僕は捨てるのは嫌だったので田舎の親戚に配ったりとかして、とにかく一旦は服の行き先を決めました。こうして廃棄せずには済んだのですが、なんだかしんみりしちゃって……。それで、こういう経年在庫問題を解決することも今回のお店の企画なら可能なんじゃないか、と思ったんです。なので実にパーソナルな思いが発端。サステナビリティ、SDGsといったことへの意識が社会的に高まっていますが、それありきで考えたわけではなく、個人的な部分だけですね。たまたま社会のムードとタイミングが合致したので、相談した企業やブランドも協力してくれるところが出てきたというのはあると思います」
大都市圏から2時間程度の都市が面白い
ところで、小沢さんの地元であり「EDISTORIAL STORE」を出店する長野県上田市とはいったいどんな街なのだろうか。
「今の上田は『僕が高校生の頃と全然違う! こんなことになっているんだ』と思うくらい、いろいろなお店がありますね。あくまでも昔と比べて、という話ですが(笑)。一回地元から離れたからこそ見えることというのもあって、数年前に編集者の岡本仁さんが『僕の上田案内』という小冊子を作っていたんですけど、それを読むと『あ、ここ知らないわ』というお店が結構載っていたんです。上田に住んでいる人だとそこにピントが合わないんだけれど、東京から眺めると面白いと思えるようなところがいくつかあるんですよね。今日持ってきたこの『トココトMAP 2021』は『& PREMIUM』なんかに載っていそうなお店が紹介されているエリアマップです」
このマップを見ると、上田市には富ヶ谷の有名パン店「ルヴァン」唯一の支店「ルヴァン上田店」があるし、また100年の歴史を誇る映画館「上田映劇」では写真家の石川直樹さんを招いたトーク・イベントを催すなど、現代的視点と歴史的価値がいい具合に結びついて文化的水準を高めている印象だ。
「何人かからは『東京の店の方が最大公約数を狙っていて個性のあるところが少なく、地方に突き抜けた店が目立つようになった。小沢さんもそういう姿勢でやったらいいんじゃないの』という意見をいただきました。それと、これも誰かが言っていたんですが『ヨーロッパでは大都市圏から何らかの交通手段を使って2時間弱くらいの距離にある地方の都市にはいいセレクトショップとレストランが少なくとも一軒ずつはある』と。これは実は僕らが知らないだけで、日本もそうなりつつあるんじゃないかと感じています。こうした話を自分に置き換えてみて、個人でできる上限というのはあるかもしれませんが、突き抜けた、破天荒なお店にできたらな、と考えているところです」
撮影協力:STILLPARK(玉川田園調布)