文・写真=青野賢一
スタイリストとして長年活躍する小沢宏さんが、故郷である長野県上田市に自身の店を構えるという話を耳にしたのは今年の夏頃だったろうか。「EDISTORIAL STORE(エディストリアル ストア)」という名のその店、聞けば小沢さんが信頼をおくブランドやショップの「経年在庫」から小沢さんがセレクトしたものを取り扱うのだそう。
近年、シーズン性を重視するファッション業界における経年在庫の問題––––廃棄やそもそも供給過多ではないかという現状––––が取りざたされるようになり、また社会の機運としても環境負荷を考えることや、健全なかたちで事業を進めることへの意識が高まってきているのはご存じの通り。そんななかでスタイリストである小沢さんは何を思い、どう行動してゆくのか? 本稿は、2022年4月にオープン予定の「EDISTORIAL STORE」について、店づくりとほぼ同時進行で取材する全5回予定のシリーズ記事。初回と第2回は小沢さんへのインタビューをお届けする。
10年ほど悶々と考えていたことがようやくまとまった
「大学で長野県上田市から東京に出てきて、大学在学中に当時『POPEYE』のエディターだった御供秀彦さん(故人)のアシスタントに就くことになりました。それからスタイリスト・アシスタントとして『POPEYE』を中心に携わり、その後、ひとり立ちしました。自分の事務所『FUTURE INN』を立ち上げたのが28か29歳のときですね」。小沢さんのキャリアはこうして幕を開ける。「スタイリストとして雑誌の仕事やファッション・ブランドのカタログに携わり、また自分のブランドをスタートして服作りにも関わるようになりました。スタイリストが根底にあるのだけど、そこから枝葉が伸びるように色々なことをやってきたわけですが、18歳で東京に来て、来年(2022年)で58歳。40年ぶりに地元に帰ってお店を始めます」
店を立ち上げることを思いついたのは今年の2月だそうだが、実はそこに至るまでには10年近くの月日を要したという。
「現役感はなくさず、自分の満足というところをキープしつつ、これまでやってきたことをどうまとめ、スタイリストとしてどのようにソフトランディングするのがいいのかをずっと考えていました。当然、商売として成り立たなければいけないのでそれも含めて。それで悶々としていたわけですが、今年の2月にパッと閃いてすべてがつながった。『あ、なんかすごくいいこと思いついちゃったかも!』と。それが今回のお店の話なんです」