あえて電動化されていないスポーツカーが登場

 将来を見据えて「完全EV化宣言」をする自動車メーカーが後を絶たないいま、あえてまったく電動化されていないスポーツカーを登場させたのはなぜなのか。新型Zにまつわるそんなあれこれを、チーフプロダクトスペシャリストである田村宏志さんにうかがいました。

「新型Zを出すと公表して、『これが最後のピュア内燃機を積むスポーツカーですか?』とよく聞かれます。そういうことを考えないのが私の考えです。内燃機の寿命を少しでも長く引っ張ることを喜んでくれるお客様がいるのは確実なので、ギリギリまで引っ張るにはどうすればいいか、それは血眼になって考えます」

エンジンは3リッターのV6ツインターボ。モーターの類はいっさいない、電動化されていないピュア内燃機である

「スポーツカーはやっぱり格好良くなくちゃダメなんです。さらに言えば、遠くから見てもすぐにそのクルマだと判別できるシルエットを持つべき。幸い、Zには50年以上もの歴史があってスタイリングがすでにひとつのアイコンとなっていますから、それを踏襲しつつ現代の風景にも馴染むデザインとしています。同時に、スポーツカーのスタイリングは機能的でなくてはならない。新型Zのフロントフェイスには大きな開口部があります。排気量が小さくなったとはいえパワーは増えていますから、発熱量は従来型より約35%増加しています。だからしっかり冷やさないといけない。グリル内に設けたフィンの断面形状は試行錯誤して、入ってくる空気の流れを妨げず流量増加が期待できるものとしました。フロント部で空気を切り裂いて、ボディサイドからリヤにかけてきれいに収束させるよう、ドアハンドルの形状にも気を遣いました」

 

スポーツカーであると同時にGT的な要素も

 実は田村さん、日産自動車が誇るもう1台のスポーツカー、GT-Rの開発責任者も務めています。「歴代のZはスポーツカーであると同時にGT的な要素も持ち合わせてきました。だから新型では操縦性を高めるでけでなく、乗り心地や静粛性も向上させています」と教えてくれましたが、ZにGT的要素が必要なのは、GT-Rとの関係性も踏まえてのことでもあるのでしょう。田村さんはZとGT-Rの関係について「Beaty & Beast(美女と野獣)」と表現し、「Zはダンスパートナー、GT-Rはモビルスーツ」と例えています。Zは踊るように、GT-Rは戦うように運転する、そんなイメージだと思います。ただ両車とも「日産自動車のスポーツカー」ではあるわけで、共通項のようなものは存在しないのでしょうか。

ニューヨークでの発表会の様子。1番左がチーフプロダクトスペシャリストである田村宏志さん

「どちらもドライビングプレジャーは必ず感じていただけるはずです。しかし、両車にはそれぞれ歩んで来た歴史があるので、まったく同じではありません。ドライバーの意図した通りに動くけれど、意図しない動きはしないとか、クルマとして、スポーツカーとして、当たり前の部分はZでもGT-Rでも突き詰めたつもりです」

 田村さんは無類のスポーツカー好きであるけれど、だからといって独りよがりなスポーツカー開発はしない。彼の口からよく出てくる「お客様」のことを最優先に考えているのだと思います。決して大げさではなく、田村さんがいなかったら新型Zは誕生していなかっただろうし、GT-Rもとっくに生産中止になっていたでしょう。「まだ作り続けて欲しい」というお客様の声に真摯に向き合い応えた彼の功績が、新型Zと現行GT-Rなのです。