メインの舞台となるお屋敷は白亜のアールデコ建築。お決まりの「1930年代の英国らしさ」が気持ちのいいほど「ない」。ジョルトウィンズにある前衛的で現実ばなれした建築は、オリバー・ヒル(1887―1968)の手によるもの。インテリアも部屋ごとに意匠が凝らされており、鮮やかな壁紙やユニークな家具、誇張されたアヴァンギャルドな庭園が、「古き良きイギリスらしさ」への期待を小気味よく裏切ってくる。美術担当はジョン・ポール・ケリー。『ロスト・プリンス~悲劇の英国プリンス物語』(2003)でエミー賞と英国アカデミー賞を受賞している実力派である。
衣裳はさらに見ごたえがある。幽霊のエルヴィラ(レスリー・マン)は、従来の舞台では白い服を着せられて人間との差別化がされていたが、この映画では逆に、赤と黒とオフホワイトを中心とする強い色合いの衣裳の数々で、人間との差別化がはかられている。
妻ルース(アイラ・フィッシャー)も30年代の流麗なラインをベースにした、当時のVogueから抜け出したような装いをくるくる着替えて登場する。ショッキングピンクという、30年代にイタリアで「発明」されたばかりの色の部屋着を着ていることから、彼女が時代の先端をいく感覚をもつ女性であることを伝えている。
霊媒師のジュディ・デンチも、インド刺繍やターバン、フェザーをふんだんに用いたボヘミアン・ゴージャスと呼びたくなる装いとアクセサリーで完全装備し、役を楽しんでいることが伝わってくる。
衣裳デザイナーはシャーロット・ウォルター。インタビュー動画によると、イギリス中をリサーチして1930年代の服を買い付け、Vogueを筆頭に当時の雑誌を徹底的にリサーチした。80年前の生地は傷んでいるのでそのままでは使えず、集めた資料をもとに現代の観客にもアピールし、キャラクターの立ち位置を伝えるように作り上げたとのこと。その結果、流麗な30年代ゴージャスを現代に翻案した、2022年のファッションコレクションとしても通用するほど魅力的な衣裳ワールドが繰り広げられる。