アルマーニは真っ先に、4月上旬、WWDのインタビューに答える形で、サステナビリティの観点から次のような趣旨の提言をおこなった。

・1年に4回ものコレクションは多すぎた。実際の需要よりも供給過剰になっていた。
・コレクションのスケジュールは顧客の季節的な需要に沿っておこなうべき。
・値下げについても、店頭で大々的にセールとうたわず、顧客と個人的に静かにやり取りすべき。

 同時にアルマーニは、従来の商習慣を破り、今年の春夏コレクションを9月まで店頭に置くと発表した。

 また、アンソニー・ヴァカレロが手がけるサンローランは、2021年春夏シーズンのパリコレクション不参加を表明した。サンローランは、2020年内に予定していたコレクションをすべてキャンセルし、それ以降は独自のカレンダーで作品を発表していくという。

 グッチも9月末のショーは延期し、過去の慣習とは異なる理想の発表形式を模索していくと表明した。

 

負のサイクルを断ち切るために

 5月上旬には、世界中のモード界で働く有志が「ファッション・インダストリーへの公開書簡」を発表した。トム・ブラウン、ドリス・ヴァン・ノッテン、トリー・バーチらデザイナーを筆頭に、アメリカのノードストロームやバーグドルフ・グッドマン、イギリスのセルフリッジズといった小売業の管理職ら600人が、サステナビリティの観点から現在のシステムを改変したいという声明を出したのである。

 顧客の実需要に見合った商品の展開をすること。セールの時期をシーズンの末期にもってくることで正規価格での販売期間を延ばすこと。衣類の廃棄を減らすこと。デジタルを活用することで移動距離を減らすこと。

 このようにして現行の悪しき商習慣や環境に負荷をかける慣習を断ち切り、ともに手を携え、より良いシステムに変えていくことによって、地球環境を守りつつファッションが本来もっていた魔法のような魅力や創造性を取り戻そう、と書簡は締めくくられている。

 さらに下旬にはアメリカファッション評議会(CFDA)と英国ファッション評議会(BFC)が、業界をスローダウンさせようというメッセージを出した。デザイナーや職人のクリエイティビティを守るためにショーの回数を絞ること、顧客の実需要のある時期に商品を提供することの必要性を訴える、異例の共同声明である。

 コロナ禍での休止期間は、課題山積であったモードのサイクルを見直すまたとない機会としても機能している。休止期間ができたからこそ、負のサイクルを断ち切る絶好のチャンスなのである。

 この機を活かして根本から流れを変えるのか、あるいはかつて来た道に戻るのか、経営者の判断が試されている。

 まだコレクションが年2回のみ行われていた頃のモードの消費者には、クリエイターの才能が発揮された新作を待つワクワクするような喜びと、新作を通して新しい季節の到来を感じる嬉しさがたしかにあった。過剰となったコレクションを絞り込み、顧客の実需要に合わせた商品を展開していくことで、モードがかつてもたらしてくれたメリハリのある感動が再びもたらされることを願う。