ラグジュアリーブランドは、社会貢献によって責任を果たす
常に率先して社会的な貢献を果たしてきたジョルジオ・アルマーニが、感染症対策に関わるイタリアの機関に対して125万ユーロ(約1億4750万円)を寄付したのを筆頭に、ケリング、ブルガリ、ドルチェ&ガッバ―ナらも研究機関へ多額の寄付をおこなった。
現金以外の形では、たとえばディオール、ゲランなどの香水ブランドを擁するLVMHは、香水や化粧品の生産ラインを転用し、ジェルタイプの手指消毒液を生産し、保健当局に無料で提供した。さらに、ルイ・ヴィトンでは、フランスにあるメゾンのアトリエ複数を使って、医療用の防護マスクとガウンを製造、医療従事者に支給した。他のブランドも続々、マスクや防護服の製造を始め、医療関係者に寄贈した。
日本においても、ブルガリ・ジャパンがコロナ治療の最前線で闘う医療従事者に対して、ミシュランの星付きレストランのお弁当を無償提供する「ブルガリ お弁当プロジェクト」を実施するなど、ラグジュアリーブランドは、コロナ禍では独自の社会貢献をおこなっていることを積極的にPRする。
ラグジュアリーブランドによるこのような社会貢献は、コロナ前から広範囲で声高にうたわれていたCSR(企業の社会的責任)活動にとどまらない意味をもっている。
現在のラグジュアリー市場の消費者は、ラグジュアリー商品の価格には、企業がサステナビリティ活動をおこなうための価格が含まれている、ゆえにこうした貢献は当然の義務と考えているのだ。
この点を示唆くださったのは、ミラノと東京に拠点をもつビジネスプランナー、安西洋之氏である。『FCC REVIEW』 2020年4月号に掲載された『21世紀のラグジュアリー論 イノベーションの新しい地平』において、安西氏は米ベイン・アンド・カンパニーの2019年の報告を次のように紹介する。
「ラグジュアリーブランドの顧客の約60%は『ラグジュアリーブランドは他の産業よりも社会的な責任を果たすべき』と考え、約80%は『社会的な責任を果たしているブランドを好む』と回答。そして『ラグジュアリー商品の価格には、サステナビリティのためのプレミアがすでに含まれていると考えるのが当然である』と思っている。」
思えば2019年のパリのノートルダム寺院の火災の際も、修復のための寄付をいち早くおこなったのはラグジュアリーブランドグループであった。まずはケリングが名乗りを上げ、二番手となったLVMHはケリングの倍額を寄付することで存在感を示した。ラグジュアリーブランドのこうした寄付合戦を「善意のひけらかし」と呼んで反発する動きもあったが、社会課題の解決に高い関心を持つZ世代やミレニアルズは、ラグジュアリーブランドがこうした形で社会的な責任を果たすことを好意的に受けとめた。
社会的な責任を果たすことに関心が高い消費者は、ラグジュアリーブランドには、他の産業以上に社会貢献を求めるようになっており、ラグジュアリーブランドもそれに応えているのだ。ノーブレス・オブリージュの伝統の幻影もそこに重ね見られているのかもしれない。この場合、ノーブレス・オブリージュは「高い地位には責任が伴う」というよりもむしろ「高い価格には責任が伴う」と訳したほうがニュアンスとして近い。いずれにせよ、ラグジュアリーブランドは社会貢献を果たすべきという認識は、コロナ禍によっていっそうはっきりと浮かび上がったのである。