1980年代のYMO流テクノポップを期待した層にとっては斬新すぎ、1990年代のクラブ・ミュージックである新しいテクノを予想していた人々にとってはダンス・ミュージックの要素が薄く、そしてYMOがかつて開拓したテクノな歌謡曲の直系の新世代J-POPを待ち望んだ者たちには、日本語曲がテレビドラマのタイアップの1曲しかないという時点で……。

 なので、1993年のYMOの復活は、現象としては大きな話題となったものの、その創造物であるアルバム『テクノドン』に関しては、一部の好事家を除いては熱狂的に受け入れられたというわけでは、決してなかった。

 それでも30万枚以上売れたというのは時代を考慮してもすごいことだと思うけれど。

 ただ、ぼく個人は発表されたときから大好きだった。適度にポップで適度に過激で、YMOのメンバー3人たちが1980年代のYMO解散後に歩んできた音楽の道のりも辿れる大人になったYMOのアルバム。

 とっつきはわるくても、聴けば聴くほど癖になっていくという点では、YMOのかつてのカルト的な作品『BGM』『テクノデリック』(ともに1981年)に近い。

 おしむらくは、発売すぐに予定されていた海外発売が遅れて、しかも小規模にヨーロッパで出ただけだったこと。歌もののほとんどが英語曲で、海外リリースと公演が予定通りすぐに行われていたら、むしろ海外で受け入れられたのではないかと思うと、それももどかしかった。

10年ぶりのアルバムとなった『テクノドン』

『テクノドン』再発、初アナログ化へ!

 このようなもどかしい思いを抱えてきたのだが、『テクノドン』以前のYMOのアルバムが2018年から2019年にかけてYMOの結成40周年を記念して全作リマスターされてアナログLP、SACDハイブリッド(1枚の盤にハイレゾのスーパー・オーディオCDと通常CDの両方の音源が入っている規格)で再発されたのを機に、いまこそと立ち上がったのだ。

 ただ、立ち上がったというと勇ましいのだが、実際のところは長年の友人とお酒を飲みながら『テクノドン』が歴史に埋もれるのは許されないと気炎を上げたというのが正確な表現なのだけれど。

 その友人は、もともとYMOが所属していたアルファレコードの社員で、移籍したSONYでテクノ関連の企画を立ち上げた後、独立してユーマというレコード会社を作った弘石雅和さん。熱狂的なYMOファンで、かつて細野晴臣と高橋幸宏が結成したユニットであるスケッチ・ショウに、坂本龍一が加わって新たにHASというユニットを結成するきっかけを作った影の立役者でもある(そのあたりの経緯は最近刊行された音楽関係の起業者の講演を集めた書籍『音楽で企業する 8人の音楽企業家たちのストーリー』<八木良太著・スタイルノート>に詳しい)。

1993年に東京ドームで行われたコンサートで 写真=三浦憲治

 これが2019年のゴールデンウィーク中のことで、休みあけには関係各所に連絡をとり、現在『テクノドン』の権利を持っているレコード会社の担当者を紹介してもらった。

 さっそく会いに行ったのだが、タイミングがよいことに『テクノドン』の再発をちょうど考えていたとのこと。どういう形がベストなのかを考慮していたそうで、ぼくは、とにかく『テクノドン』の初アナログ盤化が世界中で待ち望まれている現状をお話して、アナログLP、CDともにリマスタリングは近年、YMO再発やYMOメンバーのソロ作品を手がけて評判が高いまりんこと砂原良徳さんでどうですかという提案をした。

 この提案も前向きに受けてもらい、ぼくはこの最初のミーティングの翌々週に福岡で行われた音楽イベント『サークル’19』でまりんと会い、『テクノドン』の再発という話があるのだけど、リマスタリングをお願いできますか? と。

 こちらも二つ返事でOKをもらい、再発作業はどんどん具体化していった。

 思えば、1993年に『テクノドン』が発表されて、6月に行われた東京ドーム公演にはまりんと一緒に観に行ったのだった。彼はもう電気グルーヴに在籍するプロのミュージシャンだったが、同時にYMOの熱狂的なマニアとして知られてもいた頃。

 一緒に東京ドームのコンサートを観て、前述の当時まだアルファレコードの社員だった弘石雅和さんによる非公式アルファレコードによる打ち上げパーティーにも一緒に行った。当時はぼくたち3人とも仕事でかすかにYMOに関わりながらも、あのときは気分はまだまだYMOファンの若者だった。

 

いきいきと生まれ変わったテクノのドン

 いよいよ『テクノドン』が砂原良徳のリマスタリングによって世界初アナログ化が実現した。同時発売の高音質のSACDハイブリッドとSHM-CDの2種類の盤もこれまでのCDとはちょっと次元のちがうサウンドになっている。

 また、『テクノドン』発売後に行われた東京ドームでのコンサートも、アルバム、コンサートをサポートしたGOH HOTODAがライヴ音源をリミックスした初BD化となる映像と、ライヴCDのセットで新装登場。

ブルーレイ・ディスクとライヴCDがセットになった『TECHNODON IN TOKYO DOME』

 こちらもリマスターとなる『TECHNODON REMIXES I&II』も同時リリースされて、1993年に再生したYMOが残したすべての作品が21世紀ならではの装いでまた世の中に姿を現したことになる。

テイ・トウワ、ジ・オーブによるリミックスを集めたミニ・アルバム『TECHNODONREMIXES I&II』

 かつてのYMOファンも、いまのYMOファンも、そしてこれまでYMOを知らなかった若い世代の音楽リスナーにも、あらためていまの時代の耳で聴いて、『テクノドン』とその周辺の作品の魅力を感じてもらえたらうれしい。