「役員室に絵画を飾るとかではなく、感性が重要で、芸術に投資することで、日本が良くなる、という感覚が持てないでしょうか。日本には国際的な企業がたくさんあります。そこで重要な役割を担う人がいつも同じような顔ぶれの異業種交流などをするのではなく、若い芸術家と時間を共にする。美術のイベントに行く。そういう生き方が企業の価値を高めはしないでしょうか」

 大西は芸術に投資することで企業が成長する、企業の価値が上がる、という先例を、どこかの企業が示し、きっかけさえできれば、そこから先は早いのではないか、という。大西はそういう機会をうかがっている。

 芸術は国が予算を割いてつくる美術館で飾るために生まれるものではない。忘れ得ぬもの、誇るべきもの、愛すべきものは、美しくてよい。しかも、現代において芸術に、美しいものには定義がない。100人いれば100通りの美がある。芸術は、自由だ。必ずしも、文化的背景や性別などには縛られない。企業が美しいと思ってつくったものが、世界にいるたくさんの人間の感性に訴え、感動を呼び起こし、愛し、忘れられぬものとなれば、それをなしたものは、自らを、現代を誇るだろう。そんな未来はステキではないだろうか。日本でも、そんな思いで働いている人がいるのだというなら、筆者は期待を寄せたい。

PHOTO MIYOTAでは、国内外から招聘するアーティストによる作品を、浅間山を借景に自然の中を散策しながら楽しむことができるのが特徴的

 

大西 洋(羽田未来総合研究所 代表取締役社長)
1979年に伊勢丹入社。三越 常務執行役員MD統括部長、伊勢丹 常務執行役員等を経て、2012年三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長執行役員、三越伊勢丹 代表取締役社長執行役員に就任。2018年6月より、日本空港ビルデング 取締役副社長執行役員、同年7月より羽田未来総合研究所 代表取締役社長(兼任)

上坂真人(株式会社アマナ/アートプラットフォームプロジェクト プロデューサー)
日経BP社、マガジンハウス、コンデナスト・ジャパン等で、『日経デザイン』、『BRUTUS』、『GQ JAPAN』等の創刊やリニューアルを手掛ける。2011年よりアマナで『IMA』メディアプロジェクトのプロデューサー。2019年から現代アートをテーマにした立体的メディアプロジェクトを構築中。武蔵野美術大学客員教授