妻ユリア氏の政治手腕は未知数

 ナワリヌイ氏の死後、同氏が率いてきた「反汚職基金」は、リトアニアで活動を続けてきたが、カリスマ的な指導者の死が反政権活動にとって打撃となったのは間違いないだろう。精神的支柱の喪失に、活動の存続さえ危ぶまれた。

 同氏の妻、ユリアさん(47)が夫の意思を引き継ぐ決意を表明したのは訃報からわずか3日後のことだ。SNSを通じて、ロシア国民、そして自身の2人の子供達のために、自由で平和なロシアを人々と共に作りたいと熱弁した。

故ナワリヌイ氏の妻ユリア氏(写真:AP/アフロ)

 政治学者で、反汚職基金の諮問機関に名も連ねるフランシス・フクヤマ氏は2月、英フィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、ナワリヌイ氏の後を継げるのは妻のユリアさんや、長女のダリアさんくらいだろうと述べた。

 ユリアさんは夫の死後、息つく暇もなく欧州や米国を駆け巡り、バイデン大統領など西側の首脳や大物政治家らと次々に会談。ロシア大統領選前には、プーチン政権に反対の意思を表明する人々に投票最終日の3月17日正午、一斉に投票所に姿を表せるよう呼びかけた。

 国内外で数千もの人々が行列を作り、無言の抵抗を示した。この行動により、激しい圧政のもとでもプーチン政権に異を唱える人々が数多く存在することを世界に知らしめた。

 しかし、ユリアさんの政治家、あるいは活動家としての手腕はまだ未知数だ。加えて、プーチン氏に公然と異を唱える人々が次々とロシアからの出国を余儀なくされる中、ユリアさんも例外ではない。安全上の理由から、現在はドイツに暮らしていると見られている。大統領選の際は、ベルリンの在独ロシア大使館で投票を行った。