柄本祐演じる藤原道長(右)と黒木華演じる源倫子(写真:大河ドラマ公式インスタグラムより)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第12回「思いの果て」では、「妾でもいい」と覚悟を決めて、道長のもとへ走ったまひろ。しかし、道長からは源倫子への婿入りというあまりにもショッキングな現実を打ち明けられてしまい……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

前評判では期待されていなかった『光る君へ』だが…

 気が早いが、2年後の2026年の大河ドラマが『豊臣兄弟!』に決定した。秀吉の弟・豊臣秀長が主役となるとあって、SNSでは早くもさまざまな声が寄せられている。

 秀吉のサクセスストーリーが弟側からの視点でどのように描かれるのか。期待する声も多かったが、秀長が朝鮮出兵の前に没することから、クライマックスの盛り上がりを心配する声も見られた。

 歴史上の出来事から、大筋の展開は決められている歴史ドラマならではの反響だろう。つまり、「どんな展開が待ち受けているのか」ということよりも、「どんなふうに描かれるのか」が注目されることになる。

 その点、今回の大河ドラマ『光る君へ』の前評判はどうだったかといえば、期待よりも不安の声の方が大きかった。なにしろ、紫式部については生年や本名すらはっきりしていないように、分かっていないことが多い。しかも、藤原道長との恋愛要素まで入ってくるという。二人が恋仲にあったという裏付けがないだけに、「荒唐無稽の物語になるのでは?」と不安視する声が多くあった。

 そうでなくても、藤原道長といえば「栄華を極めた貴族」というだけで、人物として共感できそうなポイントが見当たらない。1年にもわたって、そんな二人をどのように描くのか。なじみの少ない平安時代ということもあって、当初はそれほど歓迎されていなかったように思う。

 ところが、ふたを開けてみれば、回を重ねるごとに反響を呼び、魅了される視聴者が増えているようだ。心配された歴史的な裏付けが少ない点については、うまく想像を膨らませて視聴者を惹きつけるストーリー展開を生み出すことに成功している。これほど切なく心を打つ大河ドラマになるとは、予想すらしなかったというのが筆者の正直な胸中である。

 本連載をこの回で初めて読むという読者は、ぜひ過去の記事も読んでいただきたい。これまでのドラマチックな展開も、史料に残されている記述からうまくリアリティーが出る形で脚色されていることがお分かりいただけるはずだ。