さらに驚くのは、清潔さを保つことが患者の命を救うのだということを、統計学でデータを示し、しかも統計学に詳しくない政治家にも簡単に分かるよう図式化するなどの工夫を凝らし、ついに看護士の地位を劇的に向上させ、医療現場になくてはならない、尊敬を集める職業に変えた。

 患者の命を救いたい。そのため、みんなが「どうせ」と諦めていたことに「どうせなら」と改善を重ねた。それが看護士という職業を、誇りあるものに変えたのだ。

『おくりびと』という映画で注目を集めた納棺士という仕事も、「どうせ」を「どうせなら」の発想で、尊い仕事に変わった職業のひとつだろう。

 その原点となった『納棺夫日記』では、遺体を洗って納棺するという仕事につくと聞いた親戚から「縁を切る」とまで言われた話が載っている。しかし主人公は、遺体を洗う際、まるで医者のように清潔な白衣を着て、心をこめて遺体を洗った。

 その様子を眺めていた年配の女性から、拝まれるようになったり、「私が死んだらあなたにやってもらえないだろうか」と依頼されるようになったという。

 心をこめること。すると、みんなが「どうせ」と思っていた職業が輝き出す。「なんてすばらしい仕事なんだろう」と憧れるようになる。

トム・ソーヤーの冒険』に、印象的なシーンがある。トムは遊びに行こうと思った矢先、伯母さんから壁のペンキ塗りを言いつけられた。「え~っ!」と最初は思ったトムだが、トムは考えを切り替えてみた。

 いかにも楽しそうにペンキを塗り始めたのだ。友人が通りかかり、「なんだ、家の手伝いをさせられているのか」とからかった。するとトムは「ペンキ塗りって奥が深くって、なかなか面白いんだ」とますます念入りに塗った。トムの熱中する様子を見て友人は、なんだか本当に楽しそうに見えてきて、「なあ、俺にもちょっとやらせてくれないか」と頼んできた。「え~? やだよ」ともったいつけるトム。ついに友人は「このリンゴをあげるから!」