そのうち、他の友人たちも通りかかり、みながこぞって「今度は俺の番だ!」とやりたがるように。トムはみんながくれる贈り物をほおばりながら、「ダメダメ、そんな塗り方じゃ!」と指示を出すという格好。

 トムの行為は明らかに悪知恵の猿芝居のように見えるが「ペンキ塗りはかように難しく、奥が深く、そして楽しい仕事だったのか!」と、友人たちが再発見し、目をキラキラして取り組んだのは事実(小説だけど)。実際、日曜大工を始めた人なら分かるだろうが、ペンキ塗りというのは楽しいものだ。

 おそらくトムは、とても大切なことを知っていたのだろう。人から言われてする仕事は楽しくないが、自分から進んで取り組む仕事は楽しい、ということだ。

楽しむ工夫と「心をこめる」

 拙著『自分の頭で考えて動く部下の育て方』にも触れたことだが、人からやれと言われて受け身でやる羽目になったことは、意欲がちっとも湧かない。できるだけ手を抜いてやろうとする。

 しかし、自分がこれをやってみたいと思うことは「どうやったらもっとうまくやれるだろう?」と工夫しだす。その工夫の結果が発見につながり、喜びとなる。それがさらなる工夫を促す。ますます楽しくなる。

 そんな楽しそうな様子を見ると、他の人も感化される。「なんだか楽しそうな仕事だな」。そして、その職業が輝き出す。

 人から言われてではなく、自分から選び取ること。工夫を重ねて発見を繰り返し、楽しんでしまうこと。「どうせ」と目の前の仕事をけなすのではなく、「どうせなら」どんな工夫をこらしてやろうか、と楽しむこと。楽しむと、自然に「心がこもる」ようになる。心をこめて取り組む仕事は、周囲を感化させずにいない。「自分もやってみたい」と人が集まるようになる。