画像提供:旭化成株式会社
4年連続で「DX銘柄」に選定されるなど、デジタル先進企業としての地位を確立しつつある旭化成。同社はいかにしてDX化に向けた全社改革に取り組んできたのか。本連載では『人・データ・組織風土で奏でる 旭化成のデジタル共創戦略』(旭化成株式会社デジタル共創本部編/中央経済グループパブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。同社のDX史をひも解きながら、組織形成や人材育成など、企業に求められるDX戦略の在り方を探る。
第2回は、2018年の経済産業省「DXレポート」をきっかけに始まったいわゆるDXブームや、その後のコロナ禍の中において、旭化成がいかにしてDX化を進めていったのかを振り返る。
<連載ラインアップ>
■第1回 旭化成が全社一丸のDXビジョン策定のため「とりあえず合宿」を行った理由とは?
■第2回 旭化成が「DXブーム」の始まりとともに開始していた「CORE Project」とは?(本稿)
■第3回 旭化成グループ横断のDX組織「デジタル共創本部」はいかにして生まれたか
■第4回 化学企業である旭化成はなぜ、DX人材に選ばれる組織となり得たのか
■第5回 対象は全従業員、旭化成が進める「デジタル人材4万人化計画」の中身とは?
■第6回 旭化成の新たなDX拠点オフィス「CoCo-CAFE」がつくり出す「共創」と「集中」とは?
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⑸ DXブームの中で
『人・データ・組織風土で奏でる 旭化成のデジタル共創戦略』(中央経済グループパブリッシング)
2018年に経済産業省が「DXレポート」を公表し、さらに2020年初頭からコロナ禍によりテレワークが急速に普及したことから、情報システム部門への期待はかつてないほど高まり、多くの企業でその存在感が増していました。旭化成でもそれは例外ではありませんでした。
旭化成は、他の国内企業に先駆けて、2018年にはWeb会議システムの普及活動に着手しました。また、上司の出張時対応や資料管理の利便性を考慮して、稟議や署名のワークフローシステムも導入していたため、テレワークや働き方改革への対応を比較的スムーズに進めることができました。
START Project終結直後の2018年には、次期基幹システムの検討が始まりました。経済産業省は「DXレポート」の中で、今のホストコンピューターを活用したシステム構造のままでは2025年には12兆円の経済損失が発生すると警告し、日本の企業競争力の再構築のためデジタルによる経営変革(DX)が必要であるとし、これをきっかけとしていわゆるDXブームが始まります。
旭化成でも、NEXT projectで社内専用クラウドを活用していましたが、「2025年の壁」問題に早期に対処するため、新基幹システムへの移行が必要になりました。この移行にあたっては、デジタルデータをグループ内で広く簡単に利用できるようにする必要があることから、次の4点を大きな柱として、SAP S4/HANAへの移行を2018年末に機関決定しています。
- IaaSに本格移行すること
- 業務の標準化により、システムのシンプル化を進めること
- 2000年以来刷新していない経理財務関連のシステムを刷新すること
- 旭化成メディカルのシステムを旭化成のシステムに統合すること
実際に、2023年度からの移行を目指して「CORE Project」としてプロジェクトを開始しました。
「CORE Project」では、世界中の企業でS4/HANAへの移行が進行中であり、人手の確保が難しい状況でした。さらに、2020年春からのコロナ禍によるテレワーク主体の働き方への移行は、情報共有やトラブル対応等において、従来のノウハウが十分に活用できないという新たな難しさをもたらしたのです。
そんな中、2022年4月には、事業持株会社内部の大きな組織体制の変更があり、それに伴うシステムの移行が短期間(半年強)で求められました。この変更は、CORE Projectの進行にも少なからぬ影響を及ぼしましたが、肝心の組織体制変更自体についても、システム変更・移行上の問題により経営ニーズに完全には対応できなかったという反省が残りました。
コロナ禍の中、リモートでの大規模プロジェクトとなり難航したものの、CORE Projectも予定どおり完了しました。今後は、業務のさらなる標準化を進め、基幹システム自体も容易に構築でき、事業や組織の変革・再編に柔軟に対応できる構造にすることを目指しています。また、開発・運用の効率化のため、極力人間への依存度を下げるという方針で検討を進めています。
また、「データドリブン経営」が経営のキーワードとなっています。旭化成のIT部門でも、これにどう対応していくか、検討を進めています。多様な事業を持つ強みを活かし、異なる事業や地区ごとに個別システムが存在することをデメリットではなくメリットとすべく、それらの多様なシステムのデータを必要な時に必要な人が利活用できる基盤の構築に取り組んでいます。
実際に、データマネジメント基盤「DEEP」を開発し、2022年に運用を開始、これが旭化成のDXの土台となりました。
事業に直結するシステムについては、すでにインフォマティクス推進センターやスマートファクトリー推進センターが取り組んでいたので、情報システム部門としてはRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の導入、PCの稼働状況の分析を通じた効率的な働き方の提案や会議の効率化支援などを行うサポートシステムの開発(内製化)にも挑戦しています。
また、たびたび言及していますが、コロナ禍に伴うテレワークの急速な普及により、コミュニケーションの質の維持は旭化成にとっても大きな課題となりました。幸い、2018年には日本企業としては早い段階でWeb会議システムやグループウェアの導入(全社への活用促進活動を含む)や、同年の本社移転を契機としたペーパーレス稟議システム・電子捺印システムの部分的な導入を行っていたため、基本的な機能の準備は整っていました。
とはいえ、国内2万7000人が同時にWeb会議システムを利用することを前提にしたインフラは整っておらず、特に2020年の4、5月の決算期をどう乗り切るかや、FAXを前提とした物流業務をいかに遂行していくかなど、大変な苦労がありました。
テレワーク用に社内ネットワークにリモートアクセスするためのVPNの回線割当てをやりくりするなど一時しのぎをしつつ、通信企業に回線増強を依頼しました。もっとも日本中の会社が同じような状況であり、同様の依頼が殺到していたため、なかなか目途は立ちませんでした。
ただ、こちらも幸運なことに、セキュリティ向上の視点から検討していたゼロトラスト対応施策の一環として、社内ネットワークを介さずクラウドを活用できる仕組みを前倒しで導入し、2020年の夏場の第2波が来る頃には、営業・間接部門等のホワイトカラー職はテレワークを前提とした働き方に対応することができました。
<連載ラインアップ>
■第1回 旭化成が全社一丸のDXビジョン策定のため「とりあえず合宿」を行った理由とは?
■第2回 旭化成が「DXブーム」の始まりとともに開始していた「CORE Project」とは?(本稿)
■第3回 旭化成グループ横断のDX組織「デジタル共創本部」はいかにして生まれたか
■第4回 化学企業である旭化成はなぜ、DX人材に選ばれる組織となり得たのか
■第5回 対象は全従業員、旭化成が進める「デジタル人材4万人化計画」の中身とは?
■第6回 旭化成の新たなDX拠点オフィス「CoCo-CAFE」がつくり出す「共創」と「集中」とは?
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