在野ベンチャーが生み出すトランスミッションの革命

MTをベースに高効率化、軽量化を実現
2014.4.23(水) 両角 岳彦 follow フォロー help フォロー中
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欧州企業(この図はZF社のプレゼンテーションで使われたものだが、ボッシュ社などもほぼ同一の内容を紹介している)による「世界の乗用車と小型商用車(車両総重量6トン以下)のトランスミッション市場シェア」。「Full Hybrid」は日本流のモーター出力も電池搭載量も大きな混合動力方式、「Mild Hybrid」はエンジン+トランスミッション動力を基本にモーターが補助的に加わる方式、「E(Electric) drive」は純電気駆動(EV)である。
CVTのシェアが2009年7%、2017年6%と微減になっているのは世界の自動車販売が伸長する中で日本車以外の採用はもはや増えないのでシェアは縮小する、ということ。EVとハイブリッドを合わせた電動駆動(部分的でも)のシェアは増えるが6%程度に止まる。EVの「2%」という数字はこれでも「楽観的にすぎる」「バス、タクシー、集配車など交通インフラとしての導入が進めば・・・」という見方が各所から出てきつつある。つまり今後も新車販売の半分はMTであり続け、上級車の分野ではAT主流が変わらず、そこにDCTが加わる、と確度の高い予測がなされている。MTの変速と発進停止の操作を自動化したAMTは、やはり駆動切れの違和感が大きく浸透は難しい、と予測されているが・・・。MTをベースに高効率+自動変速を可能にしたシステムが出現すれば、MTはもちろんDCTとATの領域にも食い込んで新たなシェアを生み出す可能性は大きい。(図版:ZF Friedrichshafen AG)
平行2軸上の歯車対による変速機構の一例。この写真はポルシェ・パナメーラに搭載されているZF製7速DCTのものだか、一般のMTも変速段の配置を除き、ギアセットを噛合・解放する変速機構の作動原理と構成は同様。
写真で上段と下段でそれぞれ噛み合う歯車の直径(歯数)の比で変速比が決まり、その一方は軸と一体に回転していて、もう一方を軸と噛合・一体回転する状態にすることで、そのギアセットが「選択」される。そのためのメカニズムが、この場合(そして今日の乗用車用MTのほぼ全て)は「シンクロメッシュ」。シフトアームが軸と一体に回転しているシンクロナイザーハブ外周の爪と噛み合いつつ回転しているスリーブを軸方向(写真左右)に動かす(アーム先端は回るスリーブの溝の中を滑る)と、その内面が歯車側の円錐面に押し付けられて摩擦で回転を同調させ、軸側とハブ側それぞれに並ぶ爪の位置が合ったところで外周内面に切られている溝/爪が滑り込んで噛み合う。(写真:筆者)
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歯車と軸の回転を同調して噛合させるシンクロメッシュ機構の断面図。軸(ギアシャフト)と一体に回転しているシンクロナイザーハブの外周面には爪が切られていて、ギアの選択・噛合・解放を行うスリーブの内面に切られたシンクロナイザーキーと噛み合っている(緑色の濃い=断面が重なり合っている部分)。ここで左側の黄色で示された歯車(軸との間にはニードルベアリングが入っていて自由に回るので、この歯車が噛み合う相手とで構成される変速段は回転を伝えていない)と噛合するために、まずスリーブが左に移動する。すると斜めの断面を持つ、すなわち円錐状になったシンクロナイザーがオレンジ色で示された歯車側面のシンクロナイザーコーンに押し付けられる。ここに摩擦が発生して歯車を回そうとする。これで歯車の回転速度が軸+ハブ側に近づき、シンクロナイザーコーンとシンクロナイザーハブのそれぞれの外周に刻まれた爪/溝の位置(位相)が合うと、シンクロナイザーキーが歯車側(コーン外周)に滑り込む。これで歯車と軸は一体になり、エンジンからの回転がこの歯車組を介して伝わる状態になる。
この断面図ではシンクロナイザーの斜めの断面が2つ重なっている。これは回転同調のための摩擦面積を増やすための設計で、ダブル(トリプルもある)コーンシンクロなどと呼ばれるが、手動変速では重なり合って当たる感触が伝わり、ダイレクトな手応えをスポイルする傾向がある。ドライバーがエンジン回転を車速に同調させつつシフトレバーに伝わる変速機構の手応えを感じ取る感覚を磨けば、シンクロ機構に頼らずとも速い変速動作ができるようになる。(図版:ZF Friedrichshafen AG、注記は筆者)
「イケヤ・シームレス・トランスミッション」の変速機構を説明するためのカットモデル。既存のエンジン+トランスミッション横置き車両の6速MTを元に、そのケースに収まるように作ったものである。
写真左側から1速、(後退)、2速・・・とギアセットが配列されているが、これは既存の変速段配列を再現したもので、実際には隣り合う変速段のギアセットが共通の選択噛合機構をはさんで向かい合わない配置にする。エンジン(写真左側に位置する)から上段の軸に伝えられた回転は選択噛合されたギアセットを介して下段の軸、左端から出力(最終減速~デファレンシャルギアへ)される。
一見、既存のMTと変わらないように思えるかもしれないが、ギアとギアの間の空間で噛合・解放を行う部分にはシンクロメッシュ機構の複雑な環状部品の連なりがない。中央上段の2組のギアセットの間を注視すると、歯車と一体になった円板に大きめの「爪」(ドグツース)が設けられていて、今は両者の中間に位置する(噛合していない)スリーブの内周にそれと噛み合う爪が覗いている。その内側の回転軸に挿入された円筒状部品の外側面に溝が切られているのも見える。ここが「シームレス変速」の鍵を握る部分である。(写真:筆者)
別のカットモデル(こちらはエンジン+トランスミッション縦置き・後輪駆動車両のMTに対応したもの)の、歯車と変速(噛合・解放)部分のクローズアップ。中央のスリーブが左右に移動して(矢印参照)、その内側で捕えているドグリングをギア側面のドグツースに向かって動かし、あるいは引き抜く動作を行う。(写真:筆者)
「イケヤ・シームレス・トランスミッション」の駆動切れなし変速を実現する基幹部品。右手前に置かれているのが軸上で回転していて変速機構によって噛合される歯車であり、その側面にブロック状のドグツースが並んでいる。それと噛み合うドグリング(シンクロメッシュ機構のハブに相当)が左手前。
これだけならドグクラッチによるコンスタントメッシュ機構だが、中央奥にある円筒(軸上に挿入される)の外周に切られた溝の中をドグリング内周に突き出したピンが移動してゆくところが「鍵」。変速段を切り換える(シフト操作)時には、まず次に選択する歯車に向けてドグリングを動かして爪(ドグツース)を噛み込ませる。ほぼ同時にそれまで噛合していた歯車からドグリングを引き出す動きを加えるが、新しい変速段が噛合した瞬間にドグリングを動かす溝(カム)にトルクが伝わり、カムに導かれて解放しようとしている側のドグリングが抜け出てくるので、駆動切れなしに変速が完了する。
このカム溝の微妙な曲線、また歯車側とドグリング側それぞれに設けられたドグツースの突起が、高さがそれぞれ2種類あるだけでなく、爪としての断面形状が先端から根元まで微妙に変化していることなどに、開発者の工夫とノウハウが注ぎ込まれている。(写真:筆者)

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