VW、ボルボのクルマに見る「良き資質」とは

世界のスタンダードを知らなければ勝負はできない
2012.8.24(金) 両角 岳彦 follow フォロー help フォロー中
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ゴルフ第6世代の日本におけるベーシックグレード「TSIトレンドライン」。2012年2月からアイドリングストップと発電機による減速時回生を組み込んで「ブルーモーションテクノロジー」仕様が導入されている。「実用的移動空間」として今日のベンチマーク的存在なのは間違いなく、何倍ものプライスタグを付けたいわゆる高級車のほとんどよりも、自動車を操り、移動し、生活する心地よさは高い。(写真提供:Volkswagen)
ゴルフの車体骨格溶接工程。日本車の同様の工程で見慣れたスポット溶接のオレンジ色に溶けた点や火花(スパッターという。素材がきれいに溶け合わない時に発生するので、溶接不良の可能性が高い)ではなく、青白い光が鋼板を照らしている。アルゴンレーザーで線状に溶接しているのである。この線溶接の多用(車体全体の溶接部分の長さの70%に及ぶ)は、1つ前の世代(ゴルフ5)から。しかし次の第7世代は「MQB」を全面導入した最初の量産車種となり、この車体組立工程から最終組立ラインまでが一新される。(写真提供:Volkswagen)
フォルクスワーゲンが「ブルーモーション」と呼ぶ、現実的なエネルギー効率向上システムはアイドリングストップ(図に示すように停車・エンジン停止状態でクルマを止めておくブレーキ制御まで含まれるが、特別な仕組みではない)とエンジン直結発電機(図の8の部分)に減速時には大きな負荷をかけて電力を蓄え、駆動時には負荷をできるだけ減らす「マイクロハイブリッド」とも呼ぶ減速回生を組み合わせている。大容量バッテリーを保温保護カバー+ケースに収めていることなども含めて、日本車とはクルマづくりの視点が違う印象が今まで以上に強くなっている。(写真提供:Volkswagen)
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「ゴルフ6」をベースに車体上半部分を新しく開発した新型カブリオレ。実際に座って走らせると着座姿勢も低められているし、フロントウィンドウと両側のピラー(柱)の傾きも大きくなっている。しかしこのフルオープン形態でコックピット上部への風の巻き込みが少ないという特質は、そのフロントウィンドウから後方の車体形状、面の作り方まで、相当に緻密に検討して開発・設計がなされたことを意味する。(写真提供:Volkswagen)
ゴルフ・カブリオレに標準で用意されているウィンドデフレクター。後席上を覆い、前席背後についたて状のネットを立てる。かつてマツダの空力技術者たちが量産車に持ち込んだ手法だが、このクルマの場合はフルオープン形態ならではの「外気に身体を包まれながら走る」感覚が薄らぐほどの効果を実現している。(写真提供:Volkswagen)
ゴルフ・カブリオレのルーフ折り畳みは電動で、開閉に要する時間は10秒ほどと速い。天井になる部分には薄い鋼板を挟み込んであるなど、しっかりしたつくりだが、電動機構も含めて重量はかなり大きい。それが後席背後のトランクリッド下に収まるか、前に展開してキャビン上部を形成するかによって、重量配分は大きく変化する。もちろん車体剛性も変わる。それに対して運動性と振動特性をどう仕込むか。車体の補強をどうするかから始まり、走行実験の中でセットアップを仕上げてゆくのである。(写真提供:Volkswagen)
「パサート」シリーズに加わった「オールトラック」。4輪駆動(前輪駆動+後輪駆動力分岐メカニズム)と大径タイヤを組み合わせている。製品キャラクターに対してフットワークのまとめ方がよく合っていて、元になったパサート・セダン/ワゴンより好印象。そもそも車体の地上高を上げるとサスペンションのロワーアームの下反角(正面から見て)が強まるので、ストラットやダブルウイッシュボーン系レイアウトの足回りだと、素性からして良い方向になる。車高を落とすと逆に良いことはほとんどなく、難しい方向に行く。(写真提供:Volkswagen)
日常からワインディングロードまで「スポーツドライビング」を楽しむ道具としてはなかなかに良くできている「シロッコR」。強引に速いだけで「操る楽しさ」をむしろ失っている最近の超高性能車群よりも「スポーツ」の実感は高い。同じ性能向上スポーツ系でもゴルフとは「コーナリング」の味付けが違うあたりも、VWの懐の深さを感じさせる。ゴルフで最も「スポーティ」なのはベーシックなトレンドラインであって、高性能グレードを選ぶ必然性はない。(写真提供:Volkswagen)
ボルボが欧州仕様に準備してあった複数(各モデルに3~4種。エンジンや重量の違いによっても細かく設定を作ってある)のサスペンション仕様の中から、車高を少し低めにして運動性重視としたセッティングを選んで日本市場に導入した「S60 T4 R-DESIGN」。T4は直列4気筒過給エンジン搭載を示す。ドイツ系ブランドカーの日本向けモデルで日本側商品企画担当者が本国では異端のローダウン仕様を選ぶケースが多く、そのほとんどが動質をがスポイルされているのとは対照的な仕上がりであり、ボルボの開発者たちが「操る面白さ」を知っていて、それを自分たちの製品につくり込むことに力を注ぎ始めたことが伝わってくる。(写真提供:Volvo Cars)
同じ「T4 R-DESIGN」だが、この「V60」は「身のこなし」が「S60」よりも安定志向。こういう道を走る中でスッと向きを変えてそのまま身体を預けるように旋回に入り、回り込んでゆくS60に対して、旋回の中でも少しステアリングを切り増して回ってゆく微妙な差がある。しかし車体後部が重く、そこに荷物をいっぱいに積むことも想定されるワゴンとしては、そういう「躾け」をしておくべきなので、不満を述べているわけでなはい。「操る楽しさ」を優先するのなら、微妙ではあるけれども同じR-DESIGNでもS60を選ぶ、ということ。(写真提供:Volvo Cars)
欧州仕様の「R-DESIGN」に装備されている合成皮革と伸縮性のある布地を立体的に組み合わせたシート。体重を受け止めるフィット性、腰を中心に支持するホールド性ともに良好。日本向けとしては「S60 T4 R-DESIGN」の限定車としての最初のロット、100台だけに装着された。その後はS60/V60とも全面本革表皮で、フィット性、ホールド性とも通常のシートに変更。日本の顧客の嗜好を反映した変更だという。(写真提供:Volvo Cars)
近年、ボルボ製品のイメージの中核は「安全」。個々の技術開発だけでなく、メーカー自身が長いスパンで技術戦略を立て、リアルワールドの調査に始まって人材育成や設備開発まで含めた努力を重ね、さらにそれを一般に語り続けた成果である。車両と乗員と、そして周辺の状況を検出して危険を警告し、最終的には自動ブレーキまで行うシステムがすでに市販車に実装されている。同様のシステムを備えるクルマは増えたが、ドライバーに対する「危険の内容とそのレベル」の伝え方から最終的な介入の仕方まで、一日の長がある。しかもボルボが今、具体的な目標として掲げるのは「2020年までに新しいボルボ車が関わるアクシデントでの死亡者、重傷者を『ゼロ』にする」こと。(写真提供:Volvo Cars)

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