文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=蔵元 藤居本家

総ケヤキ造りの土蔵の貯蔵庫で、30年以上もタンクのまま常温熟成させた黄金色の純米酒。長期熟成した紹興酒やシェリー酒にも似たかぐわしい香りと、野趣あふれるジビエ料理のペアリングの凄みに感嘆! アルコール度数15度。「旭日『猪鹿鳥 GIBIER(いのしかちょう ジビエ)』 特別純米熟成酒」(蔵元 藤居本家) 720ml 3300円

高貴さが漂う黄金色の熟成酒

 ただならぬ“気品”を放つ1本だ。

 渋く輝くゴールドのラベルに描かれているのは、花札の“猪鹿蝶”ならぬ、“猪鹿鳥”。グラスに注げば、その深みのある黄金色に、だれもが思わずうっとりと見惚れてしまう。立ち上る香りは、クルミやナッツを思わせる複雑な芳しさ。味わえば豊かな酸味が広がり、すっとシャープに切れるがごとく儚くドライ。美しく枯れた表情には、高貴ささえ漂う。

 その名のとおり、ジビエ料理に合わせれば野生肉の力強いうまみがぐっと引き立ち、きれいに流してくれる。

鴨肉とも相性抜群。熟成香とドライな酒質が、力強い肉料理とよく合う。「日本酒の熟成酒と料理のペアリングの可能性は、とても大きいと思っています。ぜひみなさんの声を聞かせてください」と藤居鐵也さん

「旭日(きょくじつ)」といえば、滋賀県愛荘町の藤居本家のメインブランド。創業は、天保2(1831)年。全国の神社の御神酒の醸造元としても知られ、その年の豊穣を祝う祭祀、「新嘗祭(にいなめさい)」においては、特別な御神酒である白酒(しろき)を全国の神社へ奉献し、宮中へも献上する。

 昭和40年代後半、七代目蔵元の藤居鐵也さんは、この熟成酒「旭日『猪鹿鳥 GIBIER』 特別純米熟成酒」をつくり始めた。

七代目蔵元の藤居鐵也さん。手に持つ稲は、左が酒造好適米の「渡船」、右は食用米の稲。ちなみに「旭日『猪鹿鳥 GIBIER』 特別純米熟成酒」の原料米は、昭和29年に誕生し、滋賀県と鳥取県を中心に栽培されている「玉栄」。キレがよく、独特のコクがある日本酒になりやすいとされ、ファンを魅了する酒米だ

「現在、日本酒の熟成酒は希少ですが、じつは江戸時代は何年か寝かせた古酒が珍重されていました。もちろん昔は冷蔵設備などありません。そこで、本来の古酒の味わいを基本とするため、純米酒を常温で熟成することにしました」