中央のエントランスホールには「日本五十空景」
表慶館左右を中央のエントランスホールで結ぶインスタレーションは、「日本五十空景」。アーティストの澁谷翔が日本全国を35日間にわたり旅行、訪れた地の地元新聞の一面に空を描くという詩的でグラフィックな50作が並ぶ。
澁谷さんはインスタグラムでカルティエに「発見」された。コロナ禍でニューヨークのアトリエに閉じ込められている間、澁谷さんは空想上だけでも旅をしたいと思い、「東海道五十三次」の景色を一日一枚、インスタグラムにアップしていた。それに目を留めたカルティエがインスタグラムのメッセージで直に澁谷さんに連絡をとったという。
今回の新作は、カルティエの依頼を受けて制作されたもの。いわばシンデレラストーリーのようにも思えるが、澁谷さんは「今の時代ならばそんなこともある」と淡々と語る。47都道府県のすべてを訪れて広重の追体験をしたいと考えたが、もはや当時の景色など残っていない。ただひとつ、同じ景色が残っていることに気づいた。それが「空」だったのだ。
結びつくことによる神霊のパワー
こうして展覧会を一巡して、あらためて、タイトルに使われた「結」という言葉に立ち返ってみる。「結び」のルーツは、日本神話に出てくる「産霊」(ムスヒ)とされる。「ムス」には「生み出す」という意味があり、「ヒ」には神霊の神秘的な働きというニュアンスがある。カルティエによれば、「ムスヒ=産霊」とは、結びつくことによって神霊の力が生み出されることなのである。
右には日本文化と「メゾン カルティエ」の深い敬意に基づく「結び」から生まれたジュエリーや時計。日仏のセンスが融合した洗練されたデザイン
左には日本人アーティストとカルティエ現代美術財団の、真の「結び」から生まれたアート作品。コラボレーションの本質とは何かを考えさせ、人間の個性と、それに基づく協力関係のすばらしさを感じさせる。
左右対称の構造をなす表慶館という舞台で、「結び」が生み出す相互作用のパワフルな