カルティエジャパン50周年を記念して開かれているこの展覧会では、日本とカルティエを半世紀にわたり結んできた2つの視点から構成されている。ひとつは「メゾン カルティエ」、そしてもうひとつは「カルティエ現代美術財団」という視点である。
取材・文=中野香織
右にはメゾン カルティエと日本の対話
左右対称の表慶館の右側は、「カルティエ コレクション」(1983年創設)の作品および、この展覧会のために貸与された作品から成る、「メゾン カルティエ」のエリア。カルティエの代表作であるジュエリーや時計が170点超、展示される。単なる装飾品コレクションではない。日本美術と共鳴するデザインや、日本の伝統工芸を取り入れた革新的なデザインなど、カルティエと日本との相互対話の歴史に基づく深い結びつきを視覚的に見せる。
カルティエの最初のブティックが日本にオープンしたのは、1974年、場所は東京・原宿のパレ・フランスだった。とはいえ、カルティエと日本文化との対話は1898年前後にさかのぼる。父とともにメゾン経営に参画したルイ・カルティエが、日本の美術や書物を収集し、デザイナーの創造性を刺激していたのである。
たとえば、手鏡の形から連想した置き時計。印籠に着想源を得たヴァニティケース。トンボや蝶をモチーフとするブローチ。亀、青海波。キメラ、鳳凰、虎! 日本、そして中国と日本の双方に伝わる要素が、カルティエスタイルの基本要素となっていく様に心が躍る。
植物も負けていない。梅と桜のはかない美しさをジュエリーで再現するのはもちろんのこと、たとえば、日本の伝統的なモチーフのひとつ、「藤」もダイナミックに再現される。19世紀にヨーロッパに紹介された「藤」のモチーフが、カルティエのブローチのインスピレーション源になったことを伝える部屋では、杉本博司の「春日大社藤棚図屏風」(2022)が中央に飾られ、幻想的な空気感を醸し出している。