文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=南部酒造場
穏やかな純米大吟醸の香りと芳醇なうまみ
美しいシャンパンゴールドの酒色に、思わず見惚れる。グラスからふわりと立ち上るのは、バニラクリームを思わせる甘く複雑なオーク樽の香り。穏やかな純米大吟醸の香りと、とろりとした芳醇なうまみが樽香と溶け合って、ピタリとはまる。
「花垣」といえば、日本酒ファンに知られる福井県大野市の南部酒造場による名酒。享保18(1733)年、城下町として栄えた市内の七間通りに、大野藩御用達の大店である金物商「茶ノ木屋」として創業した。しかし、明治時代、市中で二度の大火が発生し、市中のほぼすべてが焼失してしまう。
折しもこの時期、田んぼの稲は豊作続き。そこで親戚筋の酒造家に指導をあおぎ、ゼロからの再起をかけて酒を造ったところ、大変な美酒ができあがり、たちまち評判となったという。その酒質が桜の花の垣根を思わせる華やかなものだったことから「花垣」と命名。酒造業に転身し、明治34年、社名を南部酒造とした。
2023年より杜氏として蔵に立っているのが三十代の若き蔵元、南部拓也さん。山々に囲まれた盆地である越前大野は、酒造りに適した条件がそろうと語る。
「ここ越前大野は、酒米『五百万石』の特A地区といわれ、昼夜の寒暖差の大きい気候のもとで良質な米が育ちます。また、御清水(おしょうず)と呼ばれる名水をはじめ、やわらかな地下水が豊富で、飲用はもちろん生活用水としても使われています」