しっかりと熟成する白ブドウ
冷涼ながら、標高が高く日照量に恵まれた畑で穫れるブドウは、酸落ちすることなくしっかりと熟成する。このため、早摘みでフルーティなタイプやスパークリングワインを造ることもできるし、完熟したブドウから酸とミネラルが豊かでボディがしっかりしたワインを造ることもできる。アルコール度数が高いのも特徴で、今回多かった2019年〜2022年ヴィンテージでは白ワインでも13.5%〜14.5%がスタンダード、15%を超えるものも多かった。基本的に単一品種で造られるが、リッチな味わいを狙ってブレンドするプレミアムレンジの白ワインがトレンド。
多くの種類の白ブドウが栽培される中、栽培面積としては僅差ながらピノ・グリージョがいちばん多く、次いでゲヴェルツトラミネール、ピノ・ビアンコ、シャルドネ、と続く。アルト・アディジェの生産者が固有品種としてもっとも大切にし、さまざまなバリエーションで造っているのはピノ・ビアンコだ。フレッシュ&フルーティなタイプから、余韻の長いものまで、何種類も造る生産者も珍しくない。イタリア全土でいえば個性を出しやすいピノ・グリージョの人気は鰻のぼりで、ナチュラル志向の生産者が競うようにマセラシオンしてオレンジやアンバーに仕上げている様子だが、ここにはそうした「便乗ナチュール」的な風潮は見られない。クリーンで確かな品質のワイン造りに徹し、あまり奇をてらったことは行わないのは、この地ならではの気質かもしれない。
国際品種であるシャルドネは、上級キュベとして単一で造ったり、ブレンドの主役として入る、これも重要なブドウ。高級品種シャルドネを上手く造るのはよい生産者の証、といわんばかりに「自慢のシャルドネ」で切磋琢磨し合っている。
個性的な黒ブドウ
主要な黒ブドウは3つ。産地に長く根づいてきた固有品種であるスキアーヴァとラグレイン、それにピノ・ネロだ。今ではイタリア有数の白ワイン産地として知られる当地だが、40年前は黒ブドウの栽培面積が9割を占め、そのほとんどはスキアーヴァとラグレインだった。ワインの消費市場を鑑みて白ワイン生産地へとシフトしたが、地元の人たちは今もこの2つの黒ブドウを慈しみ、大切にしている。いずれも個性的で、食事に合わせるとおもしろいため知っておいて損はない。
スキアーヴァは、果粒が大きくてたくさんの実をつけ、樹勢も強いため、ペルゴラ(棚仕立て)で栽培される。タンニンは少ないため色も淡く、酸もマイルドで柔らかな口当たり。生ハムやチーズ、郷土料理のクネーデル(チーズや野菜を練り込んだパン粉の団子)に合う。「DOCサンタ・マッダレーナ」はスキアーヴァ主体のワインで、かつてはスキアーヴァとラグレインの混醸畑から造られていた。軽やかな味わいは冷やしても楽しめるので、昨今のトレンドのチルドレッドスタイルにもぴったりだ。
ラグレインはタンニンと酸を持ちあわせた、山岳地帯らしいワイルドな雰囲気のある黒ブドウ。しっかりとした果実味があり、きちんと熟すとボリュームのあるワインになる。この地域で食べられるジビエなどの肉料理とともに親しまれてきた。
単一畑「ヴィーニャ」
ピエモンテやトスカーナ同様、アルト・アディジェで「ヴィーニャ」と呼ばれる単一畑が認定され、小区画でのワイン造りが進んでいる。テルラーノをベースとする独立系ファミリーワイナリー「エレナ・ヴァルヒ」ではカステル・リングバーグとカステラーツの2つのヴィー二ャを取得。
カルダロ村のメンドラ山地の麓、標高300mから400mにあり、流紋岩のプレート上に白雲石と氷河の堆積岩が入り混じる土壌や、モレーン土壌などさまざまな地質が見られる。
テイスティング評価で本家超えのボルドーブレンドがある
アルト・アディジェ南部のコルタッチャ地区は粘土質と水はけのよい砂利や砂質土壌。ここではカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといったボルドー品種が栽培されている。ワインサミットのプログラムでは、コルタッチャを含む世界のボルドーブレンドをブラインドで採点する「コルタッチャ・ロッサ テイスティング」が催された。
フライト3でメドックのシャトー・ブラーヌ・カントナックを抑えて首位を獲得したのは、コルタッチャで最初にカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた生産者「Baron Widmann」の『AUHOF 2018』。ボルドー品種においても品質の高さを見せつけた。
(ちなみに本試飲では評価基準が示されなかったために筆者はいずれのフライトもボルドーに高得点をつけていた。個人的な好みは致し方ない……)