監修=米永一理 取材・文=轡田早月 編集協力=永坂佳子 写真=アフロ、PIXTA
1日3回ちゃちゃっと歯磨きより、1日1回はしっかりと歯磨き
前編でご説明した通り、口腔ケアを怠っていると、大便の約10倍もの細菌まみれの歯垢(プラーク)が歯にこびりついてしまいます。歯垢(プラーク)はついてすぐなら歯ブラシでこすり落とすことができますが、バイオフィルムとよばれる状態になると、いくら歯磨きをしても落とせません。
バイオフィルムとは、文字どおり細菌の塊の表面をフィルム状の物質が覆っている状態。台所のシンクやお風呂場の排水溝の掃除を怠ったときに出てくるぬめりと同じようなものです。こうなると、唾液による殺菌が期待できなくなるばかりか、歯磨きでは落としにくくなります。
歯垢(プラーク)は食後8時間ほどでつくられはじめ、バイオフィルムになるまでの時間は24〜72時間。つまり、食事をしてから24時間以内に歯垢(プラーク)をしっかり落としておけば、歯周病になるのを防ぐことができるというわけです。
1日1回は、歯の表面だけでなく歯と歯の間や歯と歯茎の境目まで丁寧に磨きましょう。もちろん理想は毎食後丁寧に磨くことですが、忙しいビジネスマンにとって、朝食後や昼食後はそこまで時間はとれないでしょうから、就寝前は必ず5~10分かけて1本1本丁寧に磨くことを心がけましょう。
極端なことを言えば、1日3回“ちゃちゃっと”歯磨きをするくらいなら、1日1回徹底的な歯磨きをしたほうが、まだ良い口腔状態を保てます。
私たちは生まれながらにして、口の中に〇〇万円の資産価値を持っている!?
丁寧な歯磨きというと、力を入れてゴシゴシ磨く人がいますが、力が強すぎるとかえって歯を傷つけたり、歯茎が下がって歯の根面が露出したりしてしまいます。この状態が続くと、知覚過敏や虫歯のリスクが高まります。
理想的な歯磨きの強さは100〜200gもあれば、歯垢を十分落とせます。ブラッシングする際は歯ブラシを鉛筆を握るように持つのがおすすめ。ある調査によると、歯磨きの強さが女性は平均約300g男性は平均約500gだったそうですが、かなり多くの人が力を入れすぎていることがわかります。
例えば、大切にしている時計やジュエリーを手入れする際は、決して力任せにゴシゴシ磨いたりしませんよね。それと同様に、歯も傷つけないよう優しく磨いてあげましょう。
少し余談にはなりますが、健康な天然の歯1本には、100万円相当の価値があるといわれています(*誤って抜歯した歯1本に118万円の損害賠償の判決が出た事例もあります)。永久歯は親不知も入れると上下合わせて32本ありますから、誰もが自分の口の中に3200万円相当の資産を持っていることになるわけです。そう聞くと、歯周病で歯を失ったり、力任せに磨いて傷つけたりすることが、もったいないと思えてきませんか?