1983年。オーストラリア ロングリーフビーチの海中で発見された『チャレンジダイバー』。内部に海水が浸入しておらず、触れば動作可能な状態だった。フジツボに覆われていたことから通称『フジツボダイバー』。東京・田無の『シチズンミュージアム』(現在、一般非公開)にはその実物が展示されている。

2 :レトロな国産時計好きの気持ちが分かっているデザインの再解釈

「デザインは当時の資料を参考に『チャレンジダイバー』を大いに継承しています。ただし、単なる懐古的な時計ではありません。当時と同じ41mmという、現代のダイバーズウォッチとしては小ぶりなサイズを実現しつつ、厚みは当時よりも1mm程度薄くなっています。」

外装は『チャレンジダイバー』がステンレススチールに対して、チタニウム。

「スーパーチタニウム™は耐傷性や耐食性が高いだけでなく、肌に優しく、軽いので装着感はとてもいいですよ。」

二人に促されて腕にはめてみたところ、驚くほど軽く、腕に馴染む。ダイバーズウォッチは回転ベゼルのせいもあって、時計の上面が重く感じられ、接腕感とでもいうべきバランスが、いささか悪くなりがちなものだけれど、この時計にはそれがない。回転ベゼルまでがスーパーチタニウム™で造られていることも影響しているのか?

しかも、そのエッジの造形の、魅力的なことよ。角度によって、このベゼルのエッジはダルく見える。技術的に頑張っていないステンレススチール製のそれのように……

「そうなんですよ! このとろっとした印象は決め手のひとつでした。」

実物で感じられる「ダルさ」が写真で見ると実際は精密な加工によって演出されていることがわかる。また、りゅうずにはこの時計が『プロマスター』であることを証立てるロゴが彫り込まれている。

と杵鞭さんもどうやら、気に入っているポイントだったようだ。社内でチャレンジダイバーをシンカさせるとしたら? というデザインコンペが行われたという。

「このあたりはどう解釈するか、デザイナーによって変わるところでした。『シチズン アテッサ』のようなシャープな造形でシンカさせるアイデアもありました。一方、今回最終的に採用したデザインは、ご覧のように、甘い雰囲気があるんです。ケースが丸みを帯びているところもそうで、これらが全体の印象に70年代のテイストを与えているとおもいませんか?」

それでも全体の印象は、騒々しさがなく、シャープ。あるいは静謐だ。殿堀さんは言う。

「チャレンジダイバーの印象を変えないようにデザインしたのですが、いくらかのアレンジがあります。これはチャレンジダイバー発売時には制定されていなかったISOのダイバーズ規格に、プロマスターは準拠したダイバーズウォッチだ、ということも関係してくるんです……」

いよいよ、シチズンの中でもベテランデザイナー、殿堀さんの口からデザイン秘話が語られる。