──では実際に、コレクションのなかから、いくつか、実例で教えてください。
これは、スピードを表現しています。このプリントはスピードフォームという、スピードがクルマに及ぼす影響をテストする際のグラフィカルなデータを、美術的に解釈して使っています。
こちらのスカートに施したデザインは、サーモスキャナーの画像をベースにしたものです。クルマの技術的な要素、スピードに深く関わる技術がデザインモチーフです。
──こちらは胸のグラフィックも印象的です。
表面は一種のホログラム的な処理が施されていて、見る角度や天候によって、表情を変える、ゲームっぽいキューブでの翻訳ですが、ベースはフェラーリにとっての最重要建築物、マラネッロの建物の写真です。
──こちらはよりクラシカルな伝統を取り入れたものですか?
クラシカルな要素がありますが、形状はクラシカルでも扱い方はそうではありませ ん。シルバーのスーツは、現代の技術で実現した素材が使われています。
具体的にはカーボンファイバーと金属が使われていて、カーボンファイバーはクルマにも使われる素材ですが、液体のような表面になっています。
ジャケットの下のニットも、よく見ていただくと、軽く、丈夫で、通気性はいいけれど、保温性も高い、というテクニカルな素材です。
──こういったファッションの分野での新素材や、デザインの発想がクルマに活かされることもありえるでしょうか?
ファッションブランドとしてのフェラーリについていえば、まだ、明確なスタイルが確立しているわけではありません。そのアプローチは始まったばかりですから、これからやることは色々とあり、より広がっていきます。
FerrariDesignのチーフデザイナー フラビオ・マンツォーニもコレクションには注目してくれていて、よく話もします。将来的には、クルマとファッションがより深くリンクした表現もありえますが、素材の研究、選定、縫製などは、いまでも手を取り合えることがあります。
コレクションに戻って見てみましょう。
このコートで使っているウールは、「再生ウール」です。古いウールや生産工程で使われなかったウールを集めて、分けて、まとめなおして造るウールです。
このコートとスカートはリサイクルナイロンとペットボトルのリサイクル素材のミックスです。これはクルマでも使われる素材です。
これはデニムですが、デニムそれ自体はそこまでサステナブルな素材ではありません。ただ、イタリアに水の使用を控えて、オゾンを使って仕上げるデニムメーカーがあり、そこのものを使っています。
また、カーボンファイバーはクルマで使われたものを再利用しています。こうした、エコロジカルな探究は、クルマにとってもファッションにとっても重要なものです。
──今日までのフェラーリでの活動を経て、手応え、そして将来への展望は?
最初のコレクションを発表してすぐに、1000を超えるマルチブランドストアから問い合わせがあり、幸先のいいスタートを切れました。また、より多くのオーディエンスとの接点、という意味でも成功しているといっていいとおもいます。
2回目のコレクションでは、ファッション業界にも、より、私たちが何をしていて、どこに向かうのかを理解してもらったと感じています。
こうやってステップバイステップで、オーガニックにビジネスを広げていきたい。
そして、これまでフェラーリで働いていた人たちは、ファッション業界からの参入者である私の意見に毒されることを楽しんでいるようです。
将来についていえば、やはり世の中の雰囲気を反映して、ファッションもどこか暗いムードはあるとはおもいます。
しかし、この先、世界の姿が変わっていくことにはポジティブな側面もあるはずです。より、世界が混ざり合うことで、チャンスが増え、表現が広がる。メタバースの発展で、ワードローブがもっとバーチャルと融合したものとなるかもしれません。
いっぽう、私は、といえば、そもそも、オフィスにこもりがちな仕事なので、あまり大きな変化は感じていないのですが、旅する機会が激減したことは寂しくおもっています。いろいろな場所の文化、生活を肌で感じることは、私の活動にとって大きな価値があるのです。
日本にもしばらく行けていません。皆さんと会って、直接、フェラーリのコレクションを見て、触ってもらって、その話をする日が来ることを待ち望んでいます。