ライブアイドルの進化について
◉「眉村ちあきのすべて」(2019)
今や非常に多岐にわたる才能が群雄割拠するといっていい状況の「アイドル」ジャンルですが、その中でも際立った個性の光を放っているのが「弾き語りトラックメーカーアイドル」の眉村ちあきです。TVバラエティ「ゴッドタン」の即興ソングなどでご存知の方も多いかと思いますが、作詞・作曲・演奏・歌唱まで一人で行う唯一無二の世界観を持つ彼女は、2020年12月14日には、日本武道館での単独ライブ『日本元気女歌手〜夢だけど夢じゃなかった〜』まで開催しました。
本作はそんな眉村ちあきに密着した感動のドキュメント・・・と思って観はじめると完全に意表を突かれます。
この作品は「なぜ眉村ちあきは、こんなに多彩な活動ができるのか?」という疑問から始まり、予測不能な方向に転がっていきます。描かれているのは天才アイドルの創作の闘いや、過酷なオーディションや、巨大な陰謀や、都市破壊など。冗談のような振れ幅ですが、それでも最後にはしっかり「眉村ちあきのすべて」が伝わってきます。そして、タイトルの(仮)にまでしっかりと意味があります。
本作はジャンルミックスなエンターテインメントであり、まだ見たこともない「アイドル」の最新の進化を観られるお得な1本としてお勧めです。
なお本作はプレミア上映された<音楽 x 映画>をコンセプトにした映画祭Moosic Lab 2019で「審査員特別賞」「観客賞」「ベストミュージシャン賞」「女優賞」の4つの賞を受賞しました。
余談ですが、本作には彼女のファンクラブでもある「(株)会社じゃないもん」の代表取締役でもある眉村ちあきが、設立にあたって「物販」で株券を販売するという前代未聞のエピソードが描かれています。あるときに筆者の行きつけの新宿ゴールデン街の酒場で、たまたまその株主の方と隣り合ったことがあり訊いてみたのですが、この株券には本当に配当を受け取る権利などがあるということでした。
ファン(ヲタク)の「続け方」「終わり方」
◉「あの頃。」(2020)
当然のように物事には「終わり」があります。でも自らの意志で「終わり」を拒否し続けることができる場合もあれば、本人の意思とは無関係に不可避の「終わり」が来ることもあります。今回のラストにご紹介する「あの頃。」で描かれるのは、アイドルファン(ヲタク)の「続け方」と「終わり方」です。
ここまで「地下アイドル(ライブアイドル)」を中心に作品をご紹介してきましたが、本作に登場するアイドルはメジャーど真ん中の「ハロープロジェクト」です。
といっても本作が描くのはその熱烈なファン「ハロヲタ」の青春の日々です。
ミュージシャンであり、漫画家でもある劔樹人の自伝的コミック・エッセイ「あの頃。男子かしまし物語」(2014/イースト・プレス)を原作に、松坂桃李・主演で「愛がなんだ」の今泉力哉が監督した本作が描くのは、2000年代を舞台に松浦亜弥の歌に心を救われたことでファンになり、やがて仲間たちと「ハロプロ」のドルヲタ活動に熱中していく主人公の、客観的にはばかばかしくても、本人たちには充実した日々です。もしかしたらジャンルは違えども、多くの方がこうした熱狂には何らかの経験をお持ちではないでしょうか。
あくまで「自伝的」な内容を尊重して描かれる本作は、“あるある”的なことも描かれますが、一方で主人公とその仲間の一人について「事実は小説よりも奇なり」な結末を用意しています。そこに描かれているのはアイドルファン(ドルヲタ)としての人生の「続け方」と「終わり方」です。この「終わり方」は避けることができなかった終わりですが、「でも、これはこれで幸せ」かもしれないと思わせてくれるラストが泣けます。
もしこれから本作をご覧になる方で「アイドル方面には詳しくない」という方がいましたら、事前に「モーニング娘。」の楽曲「恋ING」(2003)のチェックをお勧めします。
今回の3作品は新型コロナ感染症蔓延前の世界が描かれているため、ライブ現場のシーンはスタンディングのスシ詰め状態という描写が頻出します。最近はソーシャルディスタンス確保のため、着席が主流になりつつあり、単独で現場に参加することが多い筆者としては、座席の確保など着席もメリットがあるのですが、満員のスタンディング風景が近い将来戻ってくることも祈りつつ、本稿を終了します。