文=加藤恭子 撮影=加藤熊三
“飲みごたえのある本物の純米酒”をめざして
深く輝く、琥珀色。酒器に注げば、ナッツやカラメル、カカオを思わせるめくるめく香りが、ふんわりと立ち上って重なり合う。たっぷりの甘さとしっかりとした酸がありながら、後味はさらり。熱燗にすると、そのバランスがググッと引き締まり、圧倒的なうま味にため息が出る。これは凄い酒を見つけてしまった。しかも一升瓶で2000円台! もはや反則級のコスパ!
通称“ナナマル”こと「弥栄鶴(やさかつる)山廃純米七〇」を造るのは、海の京都といわれる日本海に面した丹後半島の竹野酒造。京都府が推奨する酒米「京の輝き」を100%使用した地元中心の日常酒であり、関東ではめったにお目にかかれない。美しい琥珀色は熟成によるもので、泡盛の古酒(ク―スー)と同じ技法で、貯蔵タンクに毎年継ぎ足していく方法で熟成されている。
「弥栄鶴 山廃純米七〇」のデビューは、2005年。今は亡き先代の日下部重雄杜氏とともに、この酒をつくりあげた竹野酒造5代目蔵元の行待佳平さんに、そのなりたちを教えていただいた。
「当時、竹野酒造が造っていたのは、97%以上が地元流通のレギュラー酒(普通酒)でした。このままでは経営的にいずれ成り立たなくなる——。そんな危機感から蔵の方針を模索し、もがいていたときでもありました。それまでのレギュラー酒に代わる“飲みごたえのある本物の純米酒”をめざし、日下部杜氏とともに2003年から造り始めたのが、この山廃純米酒です」