【1】東京国立博物館
私が考える「あるべき美術館」とは、その館の特質、方針に沿った独自のコレクションを形成しているところです。そして、収集しながら作品の研究を進め、新しい価値を見出している。
その視点から「本当に足を運ぶべき」美術館、博物館を選ぶと、一番は東京国立博物館(東京都台東区上野公園:以下「東博(とうはく)」)ですね。東博は日本で一番美術館らしい美術館と言えると思います。あれだけ国宝をずらりと並べて常設展示しているところは東博しかありません。圧倒的なコレクションがあって、それをいつでも見ることができる。ルーヴル美術館や大英博物館も同じですよね。ぜひ東博の本館、東洋館、法隆寺宝物館の常設展示を見ていただきたい。僕自身、外国人の友達が日本に来て日本美術が見たいと言ったら、東博に連れていきます。
東博は作品の研究も、もちろんきちんと行っています。学芸員(東博では「研究員」と呼ぶ)だけで50人近くいますからね。そんな美術館は日本にはほかにありません。修復研究所もあるし、展示デザイナーもいます。コンサートや映画の上映会など多彩なイベントを行っているのも魅力です。
【2】東京国立近代美術館
次は、東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園:以下「近美(きんび)」)です。近美の常設展示を見ると、日本の明治から現代までの美術の流れの基本をひととおりおさえることができます。いつ行っても日本の近代美術史を順を追ってきちんとみられる美術館は、日本ではここしかありません。
近美は学芸員が独自に企画した企画展もきわめて水準が高いと思います。とくに、たとえ大量動員が見込めなくても、学芸員がじっくり考えた「渋い」個展を企画し、開催しています。個展は1カ所から作品を借りる「〇〇美術展」のような展覧会と違って、企画するのはとても大変なんです。作品が世界に散らばっている作家だと、各国の美術館と、作品を借りる交渉をしなければなりません。現在開催中の「ピーター・ドイグ展」(10月11日まで)のように現存作家だと、相手との細かな打ち合わせが必要です。近美はそうした手間のかかる面白い展覧会をしっかりと定期的に開催しています。
【3】サントリー美術館
私立の美術館では、サントリー芸術財団が運営するサントリー美術館(東京都港区赤坂)を挙げたいと思います。ここは「生活の中の美」をテーマに、絵画、陶磁、漆工、染織などの日本の古美術から東西のガラスまでをコレクションしています。
常設展室がないので常にコレクションを見られるわけではないのですが、ちょうどいま開催している展覧会「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」(9月13日まで)ではコレクションの一部を見ることができます。やっぱり立派ですよね。生活と関わる美術ということに関しては、日本では屈指のコレクションといえるでしょう。
またサントリー美術館はエミール・ガレのコレクションも素晴らしい。2016年に開催したエミール・ガレ展では、サントリー美術館とオルセー美術館のコレクションを中心に展示したのですが、ものすごくレベルが高かった。
そのときサントリー美術館の担当学芸員から聞いたんですが、オルセーからの借用料はゼロだったというんですね。なぜならば、オルセーも以前サントリーから作品を借りたことがあるからです。「前に借りたから今度はただで貸してあげるよ」というやり取りなんですね。優れたコレクションがあるとそういうことができるということです。