それは寅子の同級生・山田よね(土居志央梨)の言葉でも分かる。貧農に生まれ幼いころから辛酸を舐め続けたよねは、ドラマの第15回で、寅子の義姉・花江(森田望智)が主婦になったことを嘆き悲しんでいると怒声を上げた。

「甘えるな! 世の中に辛くない人間なんていない!」

 いつの時代も女性ばかりが生きづらさを感じているわけではない。

 猪爪家の書生・佐田優三(仲野太賀)は繰り返し高等文官試験司法科(司法試験)の試験に落ちている。書生として住まわせてもらっている猪爪家に対し、何としても試験に合格し、恩返しがしたいだろう。

 今の時代にもありそうな話である。人の世話になりながらの浪人生活は辛い。一方で優三には大きな長所もある。優しさだ。この物語は登場人物を単純化させないところもいい。生身の人間だって複雑なのだから。

「寅子の父逮捕」で激震

 第19回、ドラマは大きく動いた。

 寅子の父親で帝都銀行の経理第1課長・直言(岡部たかし)は贈賄容疑で逮捕されたのだ。

 帝都銀行をメインバンクとする「共亜紡績」が、自社株の高騰が分かっていながら、その株を政財界に賄賂としてばらまいた。直言は関与が疑われている。誰かに罪を押し付けられたのか? いつの時代にも通じる宮仕えの辛さである。

 検察が家宅捜索のために猪爪家に踏み込んできた際、書生の優三は法律の知識を生かして冷静に対応し、猪爪家の動揺を最小限に抑えた。優三の優しさと意外にも頼りになる姿が見られたシーンだった。ちなみに父・直言も優しく、子煩悩な性格だ。