この物語には憲法のほかの条文も底流している。第13条「幸福追求権」である。登場人物たちはそれぞれが自分らしく、幸せに生きたいと健気に願っている。

 寅子は見合い結婚をして家庭に入ることに希望を見いだせず、弁護士になって弱い人を守りたいと決意する。そして、「地獄」に足を踏み入れる覚悟で、設立間もない明律大学女子部法科に入学、そこでさまざまな葛藤を抱える学友と出会い、ともに成長していくという展開に、目下のところはなっている。

『虎に翼』で主人公・猪爪寅子を演じる伊藤沙莉(写真:WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ)

生きづらさ感じている人を勇気づける物語

 明律大学女子部法科とその後に進んだ明律大学法学部の同級生・大庭梅子(平岩紙)は、夫と子ども3人を持つ主婦で、寅子たちの世話も焼いてくれる包容力あるれる女性だ。だが、実は家庭内では男尊女卑の考えに染まり切った夫や長男から虐げられていた。梅子は、離婚して次男、三男と暮らすことを切望しており、そのために法律を学んでいることを寅子たちに打ち明けたのだった。

 当初は傲慢で、寅子たちを見下していた大学の同級生・花岡悟(岩田剛典)は、いずれ郷里の佐賀県に帰り、父親の後を継いで弁護士になるのが目標だった。

 まわり道をしながら、幸せに辿り着こうとしている登場人物たちの姿は観る側の胸を打つ。

 男女差別と戦った女性たちの奮闘記でないのは言うまでもない。生きづらさ(寅子の言葉だと「地獄」)を感じている全ての人を励まし、勇気付けようとする物語である。