(写真:Master1305/Shutterstock.com)
  • 「いつまでも若く美しく、元気でありたい」…いつの世でも人類はそう願ってきた。その夢が、ここにきて現実のものになりつつある。
  • 老化はどこまでコントロール可能なのか。老化研究の第一人者、慶應義塾大学の早野元詞氏が3回に分けて解説する。
  • 第3回は、「老化という病気」をいかに防ぎ、治療していくか。AIを活用した最新の研究などから可能性を展望する。(JBpress)

(早野 元詞:慶應義塾大学医学部特任講師)

※この記事は、『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)から一部抜粋・編集したものです。

【連載】
【エイジング革命①】シワ・シミ・白髪・ハゲ…老化はコントロールできるのか?遺伝より後天的な要素が8割
【エイジング革命②】老化抑制や若返り…カロリー制限やNMNサプリ摂取など努力次第で「寿命の壁」は越えられる

老化という病気の二面性

「老化は病気である。病気であるからには治療できる」

 これは私の師、シンクレア博士の持論でもあります。これに関する著書『LIFESPAN│老いなき世界』(原著2019年刊)も、世界的なベストセラーになりました。ハーバード大学医学大学院の遺伝学教授であるシンクレア氏は、実際、自らも病気にならないよう、つまり老化しないようにさまざまなケアを日々行っています。

 具体的にはカロリー制限をして、NMNなどのサプリメントを摂取する。また環境をいつも少し寒いぐらいにしておく。なぜ、わざわざ寒くして我慢するのかといえば、強すぎるストレスは身体にダメージをもたらしますが、「適度なストレスは、老化の抑止力になる」というのです。

 そればかりではないのでしょうが、確かにシンクレア博士は若々しい。半年ほど前に久しぶりに会ったときも、「もしかして本当に若返っているんじゃないか」と、少しびっくりしたほどです。

 では、「老化が病気である」のであれば、それはどのような病気なのでしょう。

 先述の通り、老化とは、動的な変化です。そして時間の経過による動的な変化は、次の二つに分けられます。「致命的な疾患」と、「身体機能の低下」です。

早野 元詞(はやの・もとし) 慶應義塾大学医学部特任講師
熊本県生まれ。2005年熊本大学理学部卒業、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号(生命科学)を取得。2010年より東京都医学総合研究所所員、日本学術振興会海外特別研究員、Human Frontier Science Program (HFSP) Long-term Fellow、ハーバード大学医学部客員研究員などを経て、2017年から現職。(株)坪田ラボでChief Science Officerを務める。2023年より(株)Flox Bio共同創業者、One Genomics.Inc co-founder。一般社団法人ASG-Keio代表理事、特定非営利活動法人ケイロン・イニシアチブ理事、一般社団法人海外日本人研究者ネットワーク理事、UJA.Inc(NPO in USA)board memberを務め、若手研究者の支援にも力を入れている。
早野研究室HP: https://www.hayano-aging-lab.com/
X(旧Twitter): @HayanoMotoshi

 致命的な疾患とは文字通り、死亡率を高めるような変化です。たとえば心不全や腎不全などがそれに当たり、少し怖い表現をするなら「一度発症すると、今のところまず治りません」という不治の病です。

 他方の身体機能の低下は、筋力低下や記憶力の衰え、関節のしなりが悪くなるなどの変化として現れてきます。その結果として「Q・O・L(Quality of Life:生活の質)」が落ちていく。決して致命的ではありませんが、結果的に人生を謳歌できなくなるような、健康寿命を損なう病だと捉えてください。

 この致命的疾患と身体機能の低下が一体となった状態、それが「老化という病気」です。