ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。
連載第9回は、人間関係の原則を説いた歴史的ベストセラー『人を動かす』(D・カーネギー著、創元社)を取り上げる。
<連載ラインアップ>
■第1回 『イノベーションのジレンマ』で考える、顧客の声は「救い」か「呪い」か
■第2回 『失敗の本質』に学ぶ、「組織の病」が企業にとって命取りになる本当の理由
■第3回 『知識創造企業』に学ぶ、組織に絶え間なくイノベーションを起こすには?
■第4回 『学習する組織』で考える、複雑すぎる世界で変革を遂げるための「5つの秘訣」
■第5回 MIT上級講師の『U理論』に学ぶ、本物の「対話力」の鍛え方とは?
■第6回 新規事業への横槍はこう封じる 「両利きの経営」実現のための4つの要件とは
■第7回 偉大な企業の意外な末路、『ビジョナリー・カンパニー2』を今どう読むべきか
■第8回 テコを利用、インテル元CEOアンドリュー・グローブのアウトプット最大化術
■第9回 「その辺のおじさんの持論」がなぜウケる? 『人を動かす』で学ぶ「人間関係の原則」(本稿)
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やる気のないリーダーにどんな声を掛けるべきか?
あなたは全社的に注目を集めている新規事業の責任者に任命された、としよう。
既存事業が停滞を見せる中、事業の2本目の柱として期待されている事業だ。会社にとっても、個人のキャリアにとってもとても大事なプロジェクトだ。
そのプロジェクトの中に、若手期待のホープである山中さんが参加した。
山中さんは全社公募で真っ先に手を挙げてきた。あなたは、過去の実績とその意気込みを買って、山中さんをベテラン揃いの中で異例とも言える若さで営業チームのチームリーダーとして抜擢したのだった。
しかし、最近その山中さんの様子がおかしい。一言で言えば、やる気がなさそうなのだ。
開発陣の努力もあり、ようやく売れそうなプロダクトの見込みが立った。そして、これから営業攻勢を掛ける、という場面だ。少なくとも1日3件は顧客訪問をして、カバレッジを広げていかなくてはならない。
しかし、この重要な場面で、山中さんは、オフィスでぼうっとしているように見える時もあるし、営業のアポイントも積極的に入れようとしない。聞くところによると、先日年配の部下に厳しい言葉を掛けられことでモチベーションがダウンしているらしい。
新規事業の責任者であるあなたは、あまりにやる気のなさそうな山中さんの姿を見て、イライラがたまってきた。
「この重要なタイミングで、リーダーという職責がありながら、たった一度タフな状況に置かれたくらいでやる気をなくすとはどういうことだ。さらに、このタイミングでやる気のない姿勢を見せるのは、チームの士気に関わる。もうこの大事なプロジェクトからは外れてくれても構わない」と感じるようになっていた・・・。
例えばこんな場面があったとしよう。この場面で事業責任者であるあなたは、山中さんにどう働き掛けるべきであろうか?
山中さんに何が起きているのか実際には分からないので、まずは「どうした? 何があった?」と優しく声を掛けてみる、というのは一つのセオリーだろう。
しかし、想像してみてほしい。なかなか数字が上がらない中、みんなこの事業を何とかして大きくしようと時間を惜しんで動いているのに、リーダーという肩書きをもらった人物がオフィスでため息をつきながらふてくされた様子で座っている姿を。
実際にあなたがこの場面に置かれたら、「山中さん、何やってるんだ! あなたはリーダーだろう。そんな姿を見せるくらいだったらもう来なくていい!」と怒りの表情を浮かべながら迫っていってもおかしくない。
なぜならば、常識的に考えて自分は正しいことを言っているわけであり、相手の取っている態度は間違っているからだ。