高速で回転する中性子星「パルサー」から、電波が放射されるイメージ。 Illustration by Olena Shmahalo for NANOGrav, under CC BY 4.0.

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 2023年6月28日、NANOGrav(ナノグラブ)という研究グループが、15年間もの長い期間にわたって観測を行ない、超々低周波の重力波を検出したと発表しました。どれくらい超々低周波かというと、1周期が3〜10年というのだから、もう低いなんてものじゃないです。重力波とは時空を伝わって行くさざなみですが、さざなみの波長(山から山までの長さ)は3〜10光年ということになります。

 このような超々長波長・超々低周波の重力波は、今にも衝突しそうな2個の超巨大ブラックホールか、あるいは宇宙にのたくる「コスミックストリング」か、はたまた「ドメインウォール」といった奇態な代物から発せられているようです。

パルサーは宇宙に浮かぶ精密時計

 今回の発表について解説するには、「パルサー」という奇妙な天体と、重力波という現象について説明しないといけません。

 パルサーは「中性子星」とも呼ばれる、重くて小さな物体です。質量は太陽の1.4倍ほどで、半径は10 kmほどしかありません。もしも太陽と衝突したら、中性子星の方は壊れませんが、太陽は負けてひしゃげて四散して、原型をとどめないことでしょう。

 宇宙に浮かぶたいていの天体は、くるくるあるいはのろのろ自転していますが、パルサーは自転速度もまた極端に速いです。中には1秒に数十回とか数百回も自転するものがあって、自転周期が数ミリ秒であることから「ミリ秒パルサー」と呼ばれています。

 中性子星はまた超々強力な磁場を持ちます。典型的な磁束密度は1億T(テスラ)で、これはネオジム磁石の1億倍ほどです。極端な数値が次々と湧いて出て、イメージするのがはなはだ困難です。

 そして磁場を持つ物体が自転すると、電波が周囲に放射されます。パルサーはその自転に合わせて電波信号(パルス)をちらちらちらちら放っています。これが「パルサー」の名の由来です。

 中性子星のうち、電波を放射する条件がそろって、ちらちら電波信号を発するものをパルサーと呼びます。が、電波でなくX線信号を発するものもパルサーと呼ぶこともあります。また全然電磁波を発してなくてもパルサーと呼んじゃうこともあって、あまり厳密な分類ではありません。