大谷 達也:自動車ライター

アシュワニ・ムッパサニ  インド・アジア太平洋地域担当最高執行責任者(COO)

いまや14ブランドを傘下にもつ巨大グループのパワフルなリーダー

 今年の1月初旬、ステランティス・グループでインド・アジア太平洋地域を担当するアシュワニ・ムッパサニ最高執行責任者(COO)が来日し、日本のメディア関係者から取材を受けた。

 ひょっとすると、多くの方々にとってステランティス・グループは掴みどころがない自動車メーカーのように映るかもしれない。なにしろ、世界中の14もの自動車ブランドを傘下に収めているのだ。そのなかには、プジョー、フィアット、ランチア、アルファロメオ、マセラティ、シトロエンのように100年を超える名門があり、ジープ、アバルト、DSのように強烈な個性を放つブランドもある。いっぽうで、そうしたブランドが誕生した国や文化はバラバラで、到底、ひとつにまとまりようがないように思える。厳しい見方をすれば「烏合の衆」と捉える向きもあっても不思議ではなかろう。

 ムッパサニCOOが担当するインドならびにアジア・パシフィックの事情も相当に複雑だ。ここには、いわゆる中国は含まれていないものの、文化的にも政治的にも大きく異なる国々ばかりで、まとまりがない。これほど複雑な地域で、多数のブランドを抱えるステランティス・グループの舵を取る仕事は、さぞかし困難を極めることだろう。

 しかし、我々の前に姿を現したムッパサニCOOは、実にパワフルで、スケールが大きなビジネスマンのように思えた。

「私はインドで生まれてからアメリカに移住し、これまでにアメリカ、インド、中東、中国、韓国、ドイツなど、様々な国で働いてきました。また、私の家族はいまでも二輪の販売店をインドで営んでいるほか、私自身も生涯を自動車産業に捧げてきました。日本にも何度もきたことがあって、家族で富士山に登ったこともあります。私は各国の文化を尊重する人間です。そして文化が持つ価値を信じる人間でもあります」

 この話を聞いただけでも、日本に生まれ、日本でしか生活したことのない私は圧倒されてしまう。しかも、彼の姿勢はあくまでもポジティブだ。

隣国でも自動車市場はまるで違う

「自動車ビジネスではとりわけ人と人の信頼関係が重要です。また、インド・アジア太平洋地域では市場ごとの特性が大きく異なっています。日本と韓国は隣り合った国ですが、自動車市場の傾向はまったく異なります。インドは極めてユニークな市場ですし、フィリピンもまた独特です。皆さんのなかには、オーストラリアとニュージーランドの市場が似ていると思っている方がいるかもしれませんが、実際は正反対で、顧客の好みは完全に異なっています。だからこそステランティスは各国に事業所を設け、それぞれの市場に適したビジネスを展開しているのです。おかげで、毎日が刺激的ですし、そうしたある種の複雑性を私は日々楽しんでもいるのです」

 私はまったく知らなかったが、ステランティスはインド国内に自動車組み立て工場とパワープラント工場をふたつずつ有しているほか、マレーシアやベトナムにも生産施設を有しているそうだ。そしてグローバルな研究開発センターがインドにあり、ここにはソフトウェア開発のグローバルな拠点もある模様。従業員はインド・アジア太平洋地域だけで4000人を超え、18の市場で35社のインポーターが事業を行っているという。ちなみに本社はマレーシアのクアラルンプールにある。