ヤマハ発動機 IT本部デジタル戦略部デジタルマーケティンググループ 主務の藤本勝治氏(撮影:今祥雄)

 180を超える国と地域でオートバイやボート、電動アシスト自転車などを販売しているヤマハ発動機は「デジタルシフトしていく社会に対応するためにデジタル技術とデータを活用しビジネスを変革していくこと」をDXと定義し、その推進に取り組んでいる。マーケティング施策としては、デジタルでの顧客接点を増やし、そこで収集した顧客データの分析に注力。これまでバラバラだった顧客情報を統合的に蓄積していくためのシステムも構築した。同社のデジタルマーケティングの狙いと具体的な取り組みを、デジタル戦略部の藤本勝治主務に聞いた。

お客さまが変わるなら自分たちも変わるのは当然

——2018年に発足したデジタル戦略部はどのような目的で立ち上がったのでしょうか。

藤本 勝治/ヤマハ発動機 IT本部デジタル戦略部デジタルマーケティンググループ 主務

医療機器メーカー、自動車部品メーカーを経て、2004年ヤマハ発動機入社。機械学習や次世代モビリティの研究開発に従事。2011年スマートフォンアプリの企画・開発・運用に従事。2018年デジタル戦略部の設立を機にデジタルマーケティング、顧客情報基盤の構築に従事。エンジニアとして技術とコストを熟知したマーケターとして、同社のデジタル戦略をけん引している。

藤本勝治氏(以下敬称略) 以前からデジタル戦略を検討するチームはあり、外部からフェローを招いてディスカッションを重ねるなどしてきましたが、デジタル戦略をさらに強化しようと部署を立ち上げることになりました。

 デジタル戦略を強化する狙いは、私どものビジネスモデルと関係があります。当社の主力製品であるオートバイはBtoBtoCのビジネスモデルで、当社がオートバイを販売するのは販売店で、お客さまに販売するという接点をもつのも販売店です。そのため、当社からお客さまのことが見えにくかったのです。そうした中、世の中全体がデジタルシフトしていき、お客さまの購買行動が変わってきたのです。

——どのように購買行動が変化してきたのでしょうか。

藤本 これまでは、お客さまが販売店でスタッフと会話しながら自分に合ったオートバイを選んでいました。また、最初は50㏄のいわゆる原付や125㏄などの小排気量のものから乗り始め、3~5年で排気量の大きいオートバイへと乗り替えていくのが一般的でした。

 しかし、昨今はインターネットで情報収集して、どのオートバイにするかを絞り込んでおき、イベントや試乗会で感覚を確かめてから来店するというお客さまが増えました。販売店に行くときには既に何を購入するのかがほぼ決まっているわけです。また、最近では気に入ったオートバイに長く乗り続けるお客さまも増えました。こうした変化により、お客さまが販売店を訪問するというリアルな接点が減っているのです。

——リアルなコンタクトでは、収集できる情報に限界が出てきたということですね。

藤本 以前は、最もお客さまに近い存在は販売店のスタッフでしたが、今ではGoogleやApple、FacebookなどのIT企業の方がお客さまの傾向を把握していると思っています。Web広告を出すときなども効果が出るまでセグメントを設定し直したりして検証し続けますが、お客さまの情報をもっているのは私たちではなくIT企業側です。デジタルを活用して自ら情報収集に努めなければお客さまを理解できないと考えたことが、デジタル戦略に本腰を入れるきっかけです。