新卒入社から2年間、実務を行わずITの学習に徹した若手社員が製造現場に入ったとき、生まれるのはベテランとの化学反応か、それともハレーションか──。ダイキン工業は2017年12月、AI人材を育成する社内大学「ダイキン情報技術大学(以下、DICT)」を立ち上げ、毎年約100名の新卒社員を2年間、学習に専念させる教育を進めてきた。DICTを卒業した修了生は、製造現場に入り込み、ベテラン社員と一緒にDXを推進している。特殊なキャリアの若手社員と現場のベテランは、はたして協働できたのか。DICTを中心としたダイキンのDXの舞台裏に迫るこの特集、第3回となる本記事では、修了生の活動や現場での学び、ベテランとの融合に焦点を当てていく。

シリーズ「フォーカス 変革の舞台裏 ~ダイキン編~」
第1回 はたして「タダ飯食らい」だったのか、ダイキンのAI社内大学がもたらしたもの
第2回 教壇に立つのは修了生、ダイキンが社内大学で「教育の内製化」を進める意味
■第3回 現場に入ったダイキン社内大学卒“噂のエリート”たち、対立しなかったのか?(本稿)
■第4回 ダイキンに来たAIトップランナーが若手AI人材に繰り返し伝える意外な心得
■第5回 ダイキンDXの知られざる苦悩、空調における「本当の変革」をどう実現するか

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「自分のアイデアがそのまま現場で使えたことはほとんどない」

 ダイキンが大切にしてきた言葉に「二流の戦略と一流の実行力」というものがある。

 たとえ計画や勝算がまだ完璧ではない「二流の戦略」だとしても、ある程度の方向性が決まったら実行へと踏み切る。そんな意味合いだという。なぜなら、戦略にこだわり過ぎれば時間がかかり、実行段階で手遅れになりかねない。勝算の確かな選択など誰でも選べるし、なにより物事にはやってみて初めて見えるものがあるからだ。DICTの設立は、この言葉を体現したものといえる。

 1期生(2018年春入学)として入学したメンバーも、リスクを承知で飛び込んだに違いない。ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター(兼)DX戦略推進準備室の岸田啓史氏もその一人だ。

「入社後の新人研修で、初めてDICTの説明がありました。1、2週間ほど考えて、入学を決めたと思います。不安も当然ありました。2年間学んだことがキャリアにつながるのか未知数でしたし、その間は実務を行わないわけです。それでも自分の考え方として、たとえ失敗したとしても、機会を逃して後悔するよりはチャレンジしたほうがいいと思いました」

 岸田氏がダイキンに入社したのは、面談の雰囲気が「ほかの会社にないほどフランクだったから」だという。「なんというか、近所のおっちゃんと話しているようで、意見を言いやすい空気感でした」と当時を振り返る。入社後は開発系の仕事をしたいとおぼろげに思っていたが、予想だにしないキャリアを歩むことになった。

 DICT生が受けるカリキュラムの詳細は、前回の記事で記した通り。2年次には生徒が複数の部門に入り、現場の課題をデジタル技術で解決する演習形式の教育が行われる。

 岸田氏が行った部門は、テクノロジー・イノベーションセンター生産システム革新グループ(※工場の生産体制や効率化を図るチーム)と特機事業部だった。AIの画像認識技術を使って課題に取り組んだという。一例として、ライン上に流れる製品の不良や不具合を発見する品質検査はこれまで人が目視で行っていたが、カメラを設置してAIの画像処理で判別する仕組みを構築しようとした。