多くの大企業にサステナビリティ経営のアドバイスしてきた内ヶ﨑 茂氏(HRガバナンス・リーダーズ代表取締役CEO)が、「日本版サステナビリティ・ガバナンス」構築の必要性と考え方を解説する本連載。第2回となる本稿では、欧米企業で主流となりつつある、取締役会内に「サステナビリティ委員会」を設置し、委員会の構成員である独立社外取締役がリーダーシップを発揮するというガバナンス・システムの役割と効果を解説する。

(*)当連載は『サステナビリティ・ガバナンス改革』(内ヶ﨑 茂、川本 裕子、渋谷 高弘著/日本経済新聞出版)から一部(「第8章 日本版サステナビリティ・ガバナンスの構築」)を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>※毎週金曜日に公開
第1回 サステナビリティ経営をモニタリングする仕組みが求められている
■第2回 サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要(本稿)
第3回 モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築
第4回 ダイバーシティの重要性(1)従業員のダイバーシティ
第5回 ダイバーシティの重要性(2)取締役の属性・年齢のダイバーシティ
第6回 ダイバーシティの重要性(3)取締役のスキル・専門性のダイバーシティ

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サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要

 サステナビリティ経営をモニタリングするサステナビリティ・ガバナンスは、どのような形で構築されていくべきであろうか。

 サステナビリティ経営を監督するガバナンス・システムとしては、取締役会内にサステナビリティ委員会を設置して、当該委員会の構成員である独立社外取締役がリーダーシップを発揮するプラクティスが欧米企業では主流になりつつある。

 本節では国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI:United Nations Environment Programme Finance Initiative)が提示している「サステナビリティ・ガバナンス」の目指す姿とその発展プロセスに基づき、サステナビリティという堅実な企業文化を促進するガバナンスの慣行を段階別に定義し、その中で多くの企業で取り入れている「サステナビリティ委員会」の役割と効果を説明する。

①サステナビリティ・ガバナンスのゴール

 国連環境計画(UNEP)の傘下にあるUNEP FIは、企業がサステナビリティ文化を促進するためにはサステナビリティをコーポレートガバナンスに組み込む必要があると主張し、2014年に発行した“Integrated Governance – A new model of governance for sustainability”において、「統合ガバナンス」というフレームワークをゴールとして提唱した。

 「統合ガバナンス」とは、サステナビリティ課題が、企業のガバナンスに完全に統合されている状態であり、長期的にはそれらの課題が企業価値を創出し、ステークホルダー(利害関係者)への利益を保証する形に統合されたシステムを意味する。

 同機関は、最終的に企業が目指すべき「統合ガバナンス」を構築するまでの段階を3つに分けることで、最終ゴールに至るための道のりを企業に提示している。

 第1段階はサステナビリティが取締役会の議題として取り扱われずに、その活動や責任が取締役会から離れたチームに任されている状態であり、多くの日本企業が当段階に該当する。第1段階から第2段階に発展するためには、まずサステナビリティを取締役会の議題の一部として含めることが必要である。

 第2段階にある企業はサステナブルな戦略を検討するための取締役会レベルの委員会を持つか、CSO(Chief Sustainability Officer:最高サステナビリティ責任者)を指名する。また、KPIを設定しサステナビリティ課題への会社の対応を評価し、当該活動内容をまとめたサステナビリティ報告書を発行する。さらに第3段階に進むためには、取締役会の全構成員がサステナビリティ戦略の策定に寄与し、実現に向けた責任感を持つことが必須である。

 第3段階の成熟したガバナンス構造を持つ企業はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)・ESG(Environment Social Governance:環境・社会・企業統治)・SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)などのサステナビリティに特化した取締役会レベルの委員会を持つ必要もないほど、サステナビリティが取締役会をはじめ会計・財務・戦略・オペレーション全体に統合されている。