写真:アフロ

 2019年に「攻めのIT経営銘柄」のDXグランプリを獲得するなど、従来からデジタル活用に先行していたANAホールディングス。同社は、コロナ下で航空需要が激減する中、DXをさらに加速させた。

 その取り組みは、既存の航空事業に磨きをかけ、非航空事業で新たな事業を探索する両利きの経営ともいえるものだ。

 同社のDXの機能と狙いを示したのが下の図だ。リアルとネットのサービスを組み合わせて、航空事業での顧客満足度やCX(顧客体験価値)を向上させるとともに、非航空事業で「マイルで生活できる世界」を実現することで、これまで以上に顧客を囲い込む狙いが強く感じられる。

 これらの取り組みを通じて、航空需要が戻った際の競争力強化と、非航空事業からの収益増により航空事業に頼り過ぎない体質への自己変革を目指したのだ。

「ANA Smart Travel」の狙いは顧客接点ごとの満足度向上

 2022年5月に発表された「ANA Smart Travel」。これは予約や搭乗時だけでなく、空港や機内などにおける顧客との関わり方をデジタル化により大きく変えるもの。「ストレスのないスムーズな旅」を提供する狙いのサービスモデルである。これにより、これまで以上にさまざまなシーンの手続きがスマホでできるようになるほか、顧客ごとのサービス提案までも目指している。

 具体的には、顧客情報や搭乗データを活用して機内食や機内販売品のプリオーダーなどパーソナライズドサービスを提供する方針で、既に国際線のファーストクラス・ビジネスクラスでは、ネットから機内食を事前予約するサービスを利用できる。

 空港内では搭乗前に欠航・遅延などの運航に関する情報や、出発時刻や搭乗口の急な変更などがあれば、顧客ごとにパーソナライズされた情報をスマホに通知。そうした顧客サービス向上により、「選ばれ続ける航空会社」を目指している。

高い顧客満足度を裏側で支える「CXポータル」の仕組み

 航空会社には、さまざまな場面で顧客との接触がある。例えば、その一つが搭乗後。そうした場面でも顧客情報をいち早く共有して適切なサービスを行えれば、顧客の満足度を格段に高めることができる。

 その目的で、開発、活用されたのが「CXポータル」だ。

 2018年、顧客情報や運航情報をリアルタイムに連携するデジタルプラットフォーム「Customer Experience(CX)基盤」を構築。複数のシステムを仮想的に統合することで、各部門に分散していた顧客情報や運航情報などを全社横断で集約するデータ基盤をつくった。

 2021年には、そのCX基盤の顧客情報をタイムリーに共有するためのCXポータルを開発。これは顧客サービスを担う各部門(予約センターから客室乗務員まで)が、顧客にひも付く引き継ぎ情報を、部門横断的に共有して連携できる仕組みだ。

 その仕組みを利用することで、例えば、顧客に不快な思いをさせてしまった場合でも、次のタッチポイントでお詫びするという対応が可能となった。

 同社では、この基盤をさらに活用し、デジタル・リアル双方の顧客接点において、より一人一人の顧客に合わせたサービスを提供していく方針である。