また、そうした勉強会や意見交換の場では、相手の意見を否定することはほとんどありません。いわゆるSNSの「いいね!」文化です。

「仲間や同僚とも鍛え合うべき」という私世代の価値観からすれば、「いいね」ばかりで、意見をぶつけたり戦わせようとしないことに物足りなさを感じていました。

 しかし、「VUCAの時代」*2という言葉に象徴されるように、これまでの経験則が生かされず、正解のない今のビジネス環境では、相手の考えを否定することなく新しい情報や意見をどんどんシェアしていくという若者のほうが強いのではないかと思うようになりました。

*2:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つのキーワードの頭文字をとった、現代のビジネス環境の特徴を表した言葉。

VUCAの時代、過去の成功体験は通じない

――VUCAのビジネス環境を実感することが、桑原さんご自身もあったということでしょうか。

桑原 はい、当社の営業も良い例です。以前は、商品・サービスをいかに数多くのお客さまに訪問し提案するかの件数が重要でした。「とにかく訪問100件」が成功につながり、そうした経験の多い上司が、部下に経験をもとに指導すればよかったのです。

 しかし、今はお客様の要望は高度化・多様化していて、ただ件数をこなしても成功につながらないことはもちろん、経験豊富な上司でさえ、お客さまの期待に応えるのは難しくなっています。

 以前より成果を出すのが難しいという状況で、業績のプレッシャーもある上司も非常にストレスフルです。

 こうした状況では、社内競争を意識して個人で頑張るよりも、社内外にこだわらず、さまざまな人と仲間意識でつながり、最新情報やノウハウをどんどんシェアして、試行錯誤をしながらより良いやり方を模索する。つまり若者の価値観である「支え合う」職場のほうがいいのではないか、と思い始めたわけです。

「いいね」と言うだけのぬるく見えた若者のコミュニティには、所属組織にとらわれずに学び合おうという視点があり、場には自分が否定されないという「安心感」があります。否定されない安心感と、「一人ひとりの考えや価値感を尊重する」スタンスが混ざりあつことで、新しい発想やイノベーションが生まれやすくなるんだと気づいたとき、私は若者はむしろ「学ぶ」相手だと思うようになったのです。