ところが料理をしたことがない若い男性だと、暇そうにしているから「何しているの?」と聞くと、「今仕込んでいるのが1時間待ちなので、待っています」と答える。「待っている間に別の仕事をしたら?」と言うと、「同時に進めると頭がこんがらがるので」と頭をかく。まあ、同時並行で仕事をしたことがないのだから、無理も言えない。

 しかし仕事ともなると、本当は同時並行で仕事を進めてもらわなければ回らない。こうしたとき、料理の経験はとても生きるのだ。

 ご飯は一番時間がかかるから最初に炊飯器にセットして、みそ汁の具材は野菜だと水から煮ないといけないから最初に刻んで、鍋に火をかけたら豚カツの準備をして・・・どのおかずも一番美味しいタイミングで同時に出せるように工夫する。この思考が、料理だけでなく仕事にも生かせるのだ。

 恐るべきは、育児を体験した女性だ。傍若無人な乳幼児を同時にあやしながら料理や掃除洗濯をこなし、極端な睡眠不足をどうにかやりくりし、体調管理にも気を付け・・・無茶な要求をすべて、どうにかやりくりつけるというところを潜り抜けている。段取り力どころか、横暴な要求もうまくあしらう現場力まで鍛えられる。

 もちろん、うまくこなす前につぶれてしまうことも多い。それくらい、育児中の家事はつらい。ここをつぶれずになんとか乗りきれたら、仕事に生かせるヒントは山ほどある。

 なのに日本は、こうした女性のせっかくの能力を生かしきっていない。だいたい、パートの仕事をするしか選択肢がないのが実情。非常にもったいない。

 以前、「店長のお前じゃ話にならない、パートを出せ」という笑い話を聞いたことがあるが、スーパーの男性店長より、現場のパートのかたの方が柔軟で現実的な解を提供できるということは、実際多いのではないかと思う。

 企業は、家庭における料理や育児を、社内研修と同じかそれ以上に価値あるものとして、位置付け直した方がよいのではないかと思う。同時並行で仕事を処理する「段取り力」は、仕事の処理能力を大幅に向上させる。仕事は失敗が許されないが、料理なら失敗も含めて試行錯誤が可能だから、圧倒的な反復練習ができている。料理で磨いた処理能力は、仕事でも発揮される。